流しそうめん
木々に囲まれた木漏れ日の中、木で出来たテーブルと椅子に座って僕達は料理が運ばれるのを待っている。
メンバーは、僕、マイ、ドラゴンの化身アンと、エルフの野伏のデルと、マッスル黒エルフのレリーフと子供族のパムだ。
ここは山奥のエルフが経営するレストランで、この時期は観光客でとても賑わうそうだ。
そばに湧水池があるので、そこで泳いだりして涼をとる人や、バーベキューが出来るキャンプ場、それに避暑のための貴族やお金持ちの別荘とかもある。王都から余り離れていないから便利だ。それに裕福な者しかここには来られないからとても治安がいい。
店の僕らのテーブル以外もほぼ埋まっている。
ここの売りは『流れる天使の髪』と言う料理だ。それはエルフの間だけに広まり、巷では『流しそうめん』と呼ばれている。
「本日はご来店ありがとうございます。私、このテーブルを担当させていただきますエリーと申します。よろしくお願いします」
小柄な黒と白のフリフリとしたメイド服のエルフが微笑んだあと僕達に頭を下げる。可愛い。持って帰りたい。みんな同意見みたいでエリーちゃんをガン見している。
テーブルの上にはドーナツ状の大きな器がありそこには水が入っている。僕達1人1人につけだれと薬味が給仕される。
エリーちゃんがテーブルの端にそうめんが入ったり器を置く。
「それでは失礼します。冷気よ!」
エリーちゃんの指先から霧のようなものが出て水を湛えた器に吸いこまれていく。水が少し泡立ち、その中には無数ものまん丸な氷が浮かぶ。
「水よ、我が意に従え」
エリーちゃんの言葉に呼応し、器の中の水がぐるぐると回り始める。
なんて贅沢な。魔法の贅沢な使い方だ。
氷の粒が小さくなり、エリーちゃんはそうめんを箸で器に少しつづつ入れていく。
「それではどうぞ、お召し上がり下さい」
ドーナツ状の器の中をくるくるそうめんが回っている。氷がぶつかる涼しい音がする。よかった。僕は食いしん坊ドラゴンの上流にいる。一番下流にいるパムはそうめん食べられるのか?
「「「いただきます!」」」
僕らの箸という2本の棒を使った戦いが始まった。
美味い!
そうめんは冷たくツルツルで、つけだれは3種類あって飽きさせない。甘塩っぱいタレと、ゴマをすりつぶしたタレと、赤い辛いタレだ。薬味はわさびという涼しい辛さのものと、ショウガとミョウガというものと、ネギとあとトロロと言う白いドロッとしたものもある。少しつづつ入れて薬味による風味の変化も愉しむ。
「美味しいわ」
「美味しいですね」
マイとデルは正確な箸捌きでいとも簡単にそうめんを取っていく。
「うわっ、そうめんが逃げます!」
意外にアンは箸に手こずっていて本領を発揮出来ていない。
「すんません、エリーちゃんありがとうございます」
それより下手なのはパムで、エリーちゃんにそうめんを取って貰ってる。なんか微笑ましい。
僕は箸で取るのは諦めて、取ってる振りをして収納に入れてタレの器に入れて食べている。
「ザップー、ばれてるわよ」
マイが僕を睨む。マジか!
「え、何がですか?」
レリーフは器用にそうめんを取る。マッスルなのに…腹が立つのでそのそうめんを収納を使って奪ってやる。レリーフは目を白黒させている。
「ザップ、スキル使ってるのよ」
「えー、ご主人様それは反則ですよ、あ、私もタブレットだしましょ」
「はい、これからはスキル禁止!」
「スイマセン、エリーちゃん、俺も助けて下さい…」
確かにそうめんは美味い。けど、この空気がおいしい涼しい山奥で、みんなとワイワイしながら食べてるのが1番の調味料だ。それに、エリーちゃんも素晴らしい。
支払ったのは結構な金額だったけど、僕達はとても満足した。また来たいと思う。
みんなで外食っていいもんだな。