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 南船北馬、南は船なら北は馬?


「南船北馬、前回は船の上で戦闘訓練を行いました。と言うわけで、今回は乾いた大地での訓練となります」


 恒例のデル先生の格闘技講座、今回は普通に涼しい高原の平地だ。メンバーは僕、マイ、ドラゴンの化身アン、海でさらに黒くなったマッスルエルフのレリーフ、まるで少年中身はおっさんの子供族のパムとデル先生をいれての6人だ。

 みんな仲良く帯で前を留める道着を着用している。


「南船北馬、南は船なら北は?」


「馬ーっ!」


 デルにアンが答える。


「馬といえば?人の恋路を邪魔する者は?」


「馬に蹴られて死んじまえ!」


 何なんだこのデルとアンの茶番は?


「と言うわけで、馬と言えば蹴り、北の乾いた大地では、その大地を踏みしめての足技が発展してきました。今日のお題は足技。みんなでキックの練習をしましょう!」


 何か今日のデルはおかしい。異様にテンションが高い。


「デル先生、今日は特にご機嫌いいっすね。何かあったんすか?」


 僕の方を見て頷き、パムが尋ねる。気が利くヤツだ。僕の怪訝そうな表情に気付いたんだろう。なんか僕の周りの女の子たちよりもそこんとこ長けてるような。


「それはですね、ここの空気が良いってのと、このあと、ここらの名物の『流してそうめん』を食べるからです」


 食い物か、もしかして恋人でもできたのかと思ったけど。


「それでは、始めます。まずですけど、蹴りというものはとても便利なもので、相手がダガーなどの短い武器を持っているときは、そのリーチより基本的に足の方が長いです」


 デルが横を向いて片手と片足を前に伸ばす。うん、明らかに足の方が長い。あれならダガーを持つ手より、足の方が間合いが遠いな。


 なんか嫌な感じがして、僕は収納からダガーを出して握り、デルのように手と足を前に出す。

 そんな、馬鹿な、手とダガーの方が長い…


 みんなが僕に注目している。


「ザップ…」


 マイが憐れむ目で僕を見ている。


「ザップさん、足が短い訳じゃなく、手が長いだけですよ」


 パム、あんまりフォローになってないよ。


「手長猿…」


 暴食ドラゴンがぼそりと呟く。僕はお仕置きしてやろうとするが逃げられた。地味にアンはドラゴンなのにすばしっこい。いつか戒めてやる。


「まあ、基本的に足はリーチが長いので、しっかりとした足場では蹴りはとても有効です。けど、もし足を怪我したら動きに制限を受ける事になるので注意は必要です」


 そう言うと、デルはその場でゆっくりと前に蹴り上げる。足はみるみる上がりつま先を曲げたままその頭の上で止まる。まるで水鳥がゆっくりと羽根を広げたようだ。膝までピンと伸び、正直、美しさを感じてもしまった。みんな言葉失い見惚れていた。

 その足が戻され地に着くや否や、その場でデルが回り始める。


 ヒュ、ヒュ、ブォン!


 デルの足が空を切る音がする。右の回し蹴り、左で後ろ回し蹴り、そして最後に体を捻ってから跳びながらの回し蹴りみたいなものを放った。全ての蹴りが狙っていたのは一点。ぶれる事なく見えない相手に当たったように見えた。ん、デルの蹴りの狙ってた高さって僕の頭の高さと同じような気が…水着むしられた事、まだ根に持ってるのか?


「前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り、そして旋風脚です。まずは皆さん、各自で練習して下さい」


 僕以外のみんな、その場で各自蹴りの練習を始める。うわ、みんな足が顔の高さまで上がるんだ。

 僕は最近ストレッチをはじめたが、まだまだだ。前を蹴ってみるが直角くらいしか足は上がらない。


「ザップさん、いい蹴りですね」


 デルが寄ってくる。皮肉か?


「その、中段の前蹴りが、なんだかんだ言っても一番リーチが長く、しかも一番かわしにくいのですよ。人種も含めほぼ全ての生き物は上からの攻撃には強いのですけど、下からの攻撃には弱いのですよ」


 デルはタブレットを出して収納から一足の靴を出した。


「これは私の特注の革靴ですけど、つま先と踵にアダマンタイトというとても固い金属が入っています。私が実戦で使うのはこの靴を履いての前蹴りがほとんどです。かわしにくい、速いので、武装したゴブリンの集団とかを秒殺できます」


「それは便利だな。俺もその靴欲しいな」


「では、王都の私のお気に入りの店に今度来て下さい。良心的な値段で作ってくれますよ」


 おお、この靴なら敵の攻撃を蹴りで受けるとか格好良さそうな事できそうだな。


 みんな練習を止めて僕達の話に聞きいっていた。みんなその靴を買うのだろう。


 今僕の蹴り技は前蹴りだけだけど、日々努力してレパートリーを増やす事を誓った。


 

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