必殺技
「マイ、聞いてくれ」
僕は本を閉じてマイに話しかける。本は僕の魔法の収納に入れる事でタブレットで読む事も出来るのだが、やはり紙で出来た本をぺらぺらするのもいいものだ。
「必殺技が欲しい!」
「え、十分すぎるほどあるじゃないの?」
「違うんだ。なんというかリナみたいな、手からなんか出すやつをだ。収納からなんかだすのはイカサマみたいでなんかしっくりこない。それに仕込みが大変だ」
昨日は夜遅くまで延々と収納に剣と槍を全力で放り込み続けた。『剣の王』、『槍王』、最近の僕のフェイバリットだけど、大変だ。心が折れそうになる。仕込むのは時間がかかるけど、使うのは一瞬だ。まるで料理みたいだ。作るのは時間かかるけど、食べるのは一瞬だ。まあ、もっとも料理はほとんどマイが作ってくれるんだけど。
「なんか解らないけど、それならリナちゃんに聞いてみたら」
そりゃそうだ。まずはそうしてみよう。
僕は収納からスマホを出してリナに連絡してみる。
「ザップ、なにかようか?」
「そうだ!俺にゴールデンダークロードカノンを伝授してくれ」
「解った。わたしの言うとおりにするのだ」
おっ、教えてくれるのか?
「まずは、お腹に力を入れてぐーーっと溜める。そして、手に集めてばーーっと出すのだ!」
だめだこりゃ…何言ってるのか訳が解らない。
「なんかコツはないのか?」
「コツ?気合い、気合いを入れるのだ!」
それで通話は切れた…
「ぐーっと入れてばーっとだすか…」
僕はつい口に出してしまう。
マイの猫耳がピコピコ動く。
いかん、頭が悪く聞こえるだけでなく、そこはかとなく下品だ。
「ぐーっと力を入れて、気合いを入れてばーっと外に出すか…」
言い直したが、さらにどつぼにはまった気がする…
「ハハッ、ゴールデンダークロードカノンって難しそうだなー!」
僕の乾いた笑い声が響く。
「そうよね、難しそうよね」
良かった、マイは誤解して無さそうだ。けど心なしか顔が赤い気がする。
正直、訳が解らんが、一応リナに言われた通り試してみる。
ぐーっとお腹に力を入れてみる。
いかん、必殺技じゃなくてなんか違うものが出そうだ。アプローチが間違ってるのだろう。もっと感覚的にやってみる。
お腹に力を入れるイメージからそれを手に集めて出すイメージに繋げる。
「ハアッ!」
突き出した手の先からなんか白いものが少し出た!
「マイ、見たか今?先、先の方からなんか白いのが出たぞ!」
「もうっ、ザップ、声が大きい、恥ずかしい事大声で言わないの!」
ん、恥ずかしい事?
あ、また聞いた人に誤解を招くような頭がよろしくない言葉を使ってしまったような…
「恥ずかしい白いものがどうしたんですか?」
目をキラキラさせながらドラゴンの化身のアンが部屋に入ってくる。
厄介な時に厄介なヤツが…
アンは何度説明しても信じてくれなく、手から白い光をなんとか出して、僕達の名誉は守られた。