表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

432/2101

 魔法の絨毯に乗って1(ヒーローのように)

 昨日、有線で流れてました。


 こんな所まで助けに来てくれる訳がない。あたしは頭についた毛の生えた耳をいじる。これさえ無かったら……


 あたしの名前はマイ。最強の荷物持ち『ザップ・グッドフェロー』の仲間だ。せめて仲間よりもっと大切な存在になりたかったわ。けど、それはもう叶わない。


 ここは多分、東方諸国連合の北の果て『犯罪都市ドバン』だと思う。回りにいる人達の会話からそう思われる。


『犯罪都市ドバン』


 世間には余り詳しい情報が無い、謎に包まれた東方諸国連合の都市国家の内の1つだ。行ったものが帰って来ない。盗賊ギルドの本拠地があるなどという黒い噂のお陰で『犯罪都市』と呼ばれているが真偽は藪の中。


 ここはその街の中の城のような大きな建物の尖塔の1番高い所にある部屋。バルコニーに出て下を眺める。街並みの奥には城壁が見え、その奥には途切れる事無く鬱蒼とした森が広がっている。『魔の森』魔獣が徘徊する危険な所と聞いた事がある。

 体調が万全なら、塔の壁を伝って降りて逃げ出す事も出来るのだけど、今は無理。

 左手と右手の腕輪を見る。『弱体の腕輪』と『封印の腕輪』だそうだ。今のあたしの力は普通の女の子以下。スキルも魔法も全く使えない。

 あたしは曇った空を眺める。どうしようもないな。これが絶望というのかもしれない。外をぐるりと眺める。風の音がする。ひどい事されそうになったらここから飛び降りよう。

 けど、あたしは自分がした事には後悔していない。間違っては居なかったのだから……



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「大人しくしやがれ」


 この街でよく見る格好の短パンにシャツのごつい男が、あり得ない事に少女の腹に拳の一撃を加えた。もう1人が少女の首に首輪を嵌めようとしている。少女はよく見ると頭にあたし同様獣の耳が覗いている。獣人狩りか?

 そう思った時には体が動いていた。殺さない程度に2人の男に一撃をくれる。


 さらに後ろに気配を感じ駆け出す。


「おおっと、動くなよ。こいつの首掻っ切るぜ」


 声に振り替えると、男が少女の首にナイフを押し付けている。しまった熱くなりすぎてまだ敵が居るのに気づかなかった。最悪だ。


「よく見ると最高の獣耳けもみみじゃねーか。これなら公爵も満足するだろう。腕輪をつけろ2つともだ」


 あたしが倒そうとした3人目の男が荒々しくあたしに2つの腕輪をつける。しょうがない。ここは従う。隙を見つけて倒す。


「おっと睨むなよ、怖え、怖え。獣人は強ぇけど魔法はからっきしだからな。剣には魔法っていうだろう。眠らせろ」


「スリープ」


 あたしに腕輪をつけた男が呪文を唱える。あたしの魔法抵抗力はかなりなはずなのに、瞼が重くなり意識を失った。


 そして、気が付くと塔の中だった……



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あたしはする事も無く外を眺める。


 あたしが鳥みたいに空を飛べたらな……



 鳥?



 いや、みるみるそれは大きくなっていく。


 布みたいに薄いものの上に何かが乗っている。



 ザップ!



 ザップ・グッドフェロー。最強の荷物持ち、あたしの英雄だ!


 赤いたなびく絨毯に乗って彼はあたしに手を差し伸べる。


「マイ、帰るぞ!」


「はい!」


 あたしは彼の手を取り絨毯の上に乗る。気づかない内にこぼれた涙が手に落ちる。


 あたしは絨毯の上に乗る。


「飛ばすぞ!」


 あたしは彼の背中を抱き締める。涙がキラキラと散っていく。



 ヒーローのように、魔法の絨毯に乗って、迎えにいくよ……



 王都で流行った歌が頭の中を流れる。


 今、あたしは世界で1番幸せだ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ