スフィンクス
長くなっちゃいました。
「これって面白そうじゃないですか?」
ドラゴンの化身アンが一枚の紙切れを持ってくる。
『スフィンクスの調査』
それにはそう書かれていた。
僕達、僕とマイとアンは臨海都市シートルの冒険者ギルドで依頼あさりをしている。掲示板に貼られた依頼の数は今日は多いのだけど、あまりワクワクするものが無い。
アンが持ってきた依頼はその中でもなんか異彩を放ってる。良く見つけてきたものだ。その内容は、とある街道にスフィンクスという魔獣が出て道行く人に謎かけをしていて、今の所実害はないが、危険な生き物なのかどうか確認して欲しいというものだった。依頼料は大した事ないが面白そうなので受ける事にした。
スフィンクス…
人間の女性の上半身にライオンの体に鷲の羽が生えている魔獣。ゲームと謎かけに命を賭けているという。その情報をギルドの資料室でお金を払って手に入れた。結構強いらしいけど、ドラゴンのアンもいる事だし何とかなるだろう。
僕達はギルドで地図を確認し現場に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「嘘つき!金返せ!」
スフィンクスが出るという道を歩いていたら、そこにでっかい何かが飛んで来た。そいつを見るなり僕は咄嗟に叫んでしまった。
アンドロスフィンクス…
出て来たスフィンクスは雄だった。見るなりテンションがだだ下がる。髭面の顔に薄くなった頭頂部。疲れきったような顔にアンニュイな目。綺麗な所を強いて上げれば肌がつやつやだ。
「みんな、危ない。下がれ。なんて邪悪な生き物なんだ。成敗してやる!」
僕はハンマーを手に前に出てくると構える。
「まって、ザップ。見た目で判断しちゃ駄目よ。話だけでもしてみましょう」
マイが僕の肩を叩く。マイも一応警戒しててデスサイズを持っている。
見たとたん、条件反射で、ハンマーの錆にしたい欲求に駆られたが、すんでの所で踏みとどまる事が出来た。
資料室の文献ではスフィンクスは美しい女性の上半身だと書いてあったから、少し期待してた。当然服は着てないそうだ。
「今日は日差しが強いな。目を痛めたらいかんからサングラスをしよう。お前達もどうだ?」
そんな事言って、サングラスまで着用していたのに…
決してやましい気持ちがあった訳じゃない。当然僕は女性の胸など見た事は数える程しかない。チラッと見えただけで、ガン見したことなどない。純粋な探究心から今日はもしかしたらと思っていたが期待は淡く打ち砕かれた。奴は確かに上半身裸だ。きったねー胸毛が潮風にそよいでいやがる。
「脆弱なる人の子よ」
スフィンクスが口を開く。
「お前頭大丈夫か?ここには人なんて1人もいないわよ。魔王と竜と獣人ならいるが」
アンが腕を組んでおっさんを睥睨している。アンは自分より弱いと思うものにはとめどなく強い。弱肉強食、動物の性か?
「脆弱じゃない人でなしよ」
アンの迫力に少し押されながらおっさんは言い直した?
「お前、私をディスしたな?」
アンが目を細める。
アンから出る威圧感に押されおっさんは後ずさる。もしかして、アンって人の姿のままでも威圧咆哮が使えるのか?
「アンちゃん、危険かどうかの確認が先よ」
マイがアンを引き戻す。おっさんは命拾いしたみたいだ。マイの真面目さに助けられたな。もうこいつは邪悪という事でプチッと討伐して帰りたい。
「おじさんどうぞ、話して下さい」
マイに言われて、軽く頭を下げながらおっさんは口を開く。
「この道を通りたくば、吾輩の出す謎に答えよ。正解したら通行を許可する。不正解の時には食べてやる。どうするか?」
おっさんは羽を広げ不敵な笑みを浮かべる。さっきまでびびってたのに中々メンタル強いな。
「なんか食べるとか言ってるぞ、邪悪確定でいいか?」
「まって、実害がないって事は食べられた人は居ないって事でしょ?」
また、僕をマイが止める。マイは優しいからな。
「待て、食べるは言い過ぎた。今日の所は舐めるだけで勘弁してやろう」
おっさんが焦って声を上げる。舐めるって何だよ、それも十分たち悪いわ。
「まあ、いいでしょう、その勝負受けましょう」
アンが前に出る。いいのか?負けたら舐められるんだぞ、お前いつも通りその服はまやかしじゃないのか?
「契約成立。契約の神よ言葉を式となせ『誓約』」
おっさんの前足から出た3つ黒い霧が僕らの左手に吸いこまれる。反応したけど避けられなかった。
「これで、約束を違えたら災厄がもたられされるだろう」
おっさんはニヤリと笑う。
「やられましたね、高位の暗黒魔法『誓約』私達の誓いが守られない時には相応の罰が下ります」
「何言ってやがる。誓約したのはお前だろ何で俺達も巻き込まれてるんだ?」
「ご主人様、何言ってるんですか、あんな奴に私達が知力で負けるとおもいますか?」
「まあ、それもそうだな。じゃ、俺から行くか、早く始めろおっさん」
まあ、アンの言うとおりだな。こいつの謎に答えればいいだけだ。けど、何でこいつはこんなことしてるのだろうか?
「では始めよう」
僕とスフィンクスは対峙する。
「冒険に出た戦士が帰ってこなかった何故だ?」
ん、こいつは何言ってるんだ?もしかしてなんかひっかけなのか?それにしても冒険者が1度は口にして場を凍らせるあの伝説の駄洒落しか思い浮かばない…
「……戦死したから……」
つい、小声で口にする。
「正解!通って良し」
僕はなんかもやもやしながら、おっさんの横を通り過ぎる。
「では、私ですね」
アンが前に出る。
「ドラゴンが昼寝てるのは何故だ?」
ん、奇しくもドラゴンにドラゴン問題。けど、僕は解らない。アンが昼寝てるのはぐうたらなだけだ。飯食ったらすぐに寝る。
アンは顔をしかめて腕を組んで涙目になっている。あ、やっぱり服は幻なのか。めっちゃ追い詰められてる。
パッとその顔が明るくなる。
「ナイトと戦う為だ。夜と騎士がかけてあるんですね」
「正解。通ってよし」
おっさんの声は明るい。そういえば、さっきアンが悶えているのをガン見してたな。もしかしてそれを楽しんでるのか?
「大した問題じゃないわね。次はあたしね!」
自信満々にマイがスフィンクスの前に出る。まぁ、マイならどんななぞなぞを出されても即答する事だろう。
「それでは、問題だ。お前の体験人数は何人でしょうか?」
「「「は?」」」
僕達は呆気にとられる。
「え、なによそれ、それのどこが謎解きなのよ!」
マイが真っ赤な顔で叫ぶ。
「何を言ってるのかな?私はそれを知らないから謎でしかない」
うん、確かに謎だ。それにそれについては僕も少し興味がある。
「そんな事言える訳ないでしょ…」
マイはもじもじして顔を伏せる。サングラスしてきて良かった。がち美少女であるマイが赤くなって悶える姿がばっちり見える。顔は横向いてるようにしてるのでマイは視線に気づかないはずだ。
そうか、スフィンクスはこれが目的だったのか。女の子が恥じらったりするのを楽しんでるんだ。それで口に出来なかったら舐める。十分討伐対象になる気がするが。変態の痴漢だな。
「ハァハァ、少女よ、その小さなお口で早く答えるのだ」
本性を現した魔獣はマイににじり寄る。僕はハンマーに手をかける。けど、一定の距離までしか近づかない。そうか、見てたのしんでるのか。
「それでは、今日だけ特別に違うなぞなぞに変えてあげよう。お嬢さん、………は何処かな」
スフィンクスがマイに囁いている。言ってる事が一部聞こえなかった。
マイはさらにボワッと赤くなる。
「じゃあ、こんなのはどうかな。お嬢さんオナ」
ザシュ!!
スフィンクスの首が宙を舞う。
しょうが無い。君は頑張ったけどやり過ぎた。けど、ありがとう。勇者よ…
「なんて、邪悪な魔獣だったのかしら…」
マイの白々しい言葉が響いた。