死に神は海の男?
「お客様のご要望は水の中でも扱える武器なのですね」
長身キツネ目の武器屋のマスターは演技っぽい手を顎と肘につけたポーズで考え込む。
「私は10年以上武器を取り扱っておりますがここ王都ではそのような要望は初めてです。実際に使って頂かないと結果はわかりかねますが、アドバイスくらいなら出来ると思います。まず、オーソドックスに槍などいかがでしょうか」
マスターはそう言うと槍コーナーに僕らを案内した。
「じゃ、取りあえずこれら全てを貰おうか。あと店に並べてないのも全て買う」
「え、マジですか?」
マスターのキツネ目はまん丸に見開かれる。
「え、ザップさすがに買いすぎじゃ?」
「何いってんだ。足りないな。足りないのだよ。これっぽっちでは。俺の『剣の王』用の剣は千本はあるぞ」
「ということはやっちゃうのね、じゃあ技の名前は『槍の王』?」
「なんか、『槍の王』って語呂がわるいな、なんというかとっても遊びまわってる人みたいだ」
ヤリの王って言葉は夜の帝王みたいだ。
「じゃあ、『槍襖の王』はどう?」
まあ、悪くないな。
「うん、それにしよう」
「お客様?なんの話を?千本っておっしゃられたような?」
「ああ、千本はそう簡単に集まらないと思うから、1週間で集められるだけでいいよ。じゃこれは貰うな、在庫は後で貰う。金額は帳簿に付けてるだろ」
僕は陳列してある槍を全て収納に入れる。大人買いだ。
「大容量の魔法の収納…最強の荷物持ちザップ様?」
「ん、俺の事しってんのか?」
武器屋にまで僕の名は知れ渡ってるのか。少し面映ゆい。やっぱ王都では要変装だな。
「まさか、伝説の英雄が私の店に来られるとは…1割引き、1割引き致しますので、よろしかったらサイン入りの武器をなにか1つ売っていただけないでしょうか?」
「1割引きは豪気だな。俺はめっちゃ買うぞ」
「それよりも、英雄の武器を飾る方が私には利がありますよ」
僕は収納からミノタウロスの斧のスキル無しを出してそれに名前を刻む。それの代金は買い物分と相殺して貰う。当然マスターは抱える事すら出来ないので頼まれた場所に斧を置いてやる。
「ザップ、あたしあれが欲しいわ」
マイが壁の1点を指差す。そこには大きな死に神の鎌が飾ってあった。
「あれはアダマンタイトという固い魔法の金属でできているのですが、とっても重くて扱える者がいないのですよ?」
マイはマスターの言葉が終わる前には鎌を片手で持ち上げていた。なんだ軽いじゃん。
「おっ、それなら水の中でもいけそうだな。デスサイズって役にたたないロマン武器だと思ってたが、多分水中用に開発されたものなんじゃないか?」
「という事は、死に神って海の男なのかな?」
マイは鎌をひゅんひゅんしている。気に入ったのはいいが、危ないから止めなさい。
「俺はこいつにしよう」
槍の隣に陳列されていたランスに僕は心惹かれた。これならば水中高速移動の推進力を乗っければ結構な攻撃が出来そうだ。
「それって乗馬した騎士用ですけど、あ、重さは問題なさそうですね」
僕もついランスを構えてつんつんしてしまう。やっぱ武器持つとテンションあがるよな。
そして会計して、僕達は満足して店を出た。なんか忘れてるような?