働き者
僕達は王都の冒険者ギルドで買い取りの支払い待ちなうだ。
収納にしまっていた巨大渡り蟹やクラーケンの焼けた足などを王都の冒険者ギルドに売りに来た。
これからしばらくは僕達の懐は暖かい。目の前にギルドの職員が大金貨30枚を積み上げる。ギルドにいる全ての者の視線を集めている。買い取り価格はべらぼうだった。
内陸である王都では海の幸は超貴重品だ。その中でも今回の品は王都のギルド史上初の買い取り素材だと言う。これからオークションにかけるそうだ。はねた分の金額は歩合五割で後でくれるという破格な商いだ。砂漠のど真ん中で水を売るようなものだ。通行料の事を考えても海の幸をドサ買いしてここで売るのもアリだな。簡単に儲けられそうだ。
「あ、ザップさんこんにちわ」
僕達の隣のカウンターに馴染みの顔がいる。パムだ、背中に自分の身の丈ほどあるずだ袋を担いでいる。冒険者パーティー『フール・オン・ザ・ヘル』の一員、ホップという子供族の吟遊詩人だ。そういえばこいつ海では見かけなかったな。
パムは買い取りカウンターにずだ袋の口を開け、普通サイズのエビやカニや貝とかをずらずら並べていく。ん、普通サイズっておかしな言葉だな。巨大生物しか見てないから感覚がおかしくなっている。僕達から見たらしょぼいそれらも大金貨1枚で買って貰えた。
先を越された。こいつ見ないと思ったらせっせと商売してやがったんだな。仲間は海ではしゃいでいたというのに堅実な奴である。
「お前、海で遊びたくなかったのか?」
素朴な疑問をぶつけてみる。正直僕は遊ぶ為にお金は稼ぐものだと思っているから。
「そりゃー、おいらだって遊びたいっよ、けど、今は暑すぎていい仕事がないんですよ。おいらが稼がないとみんな宿にも泊まれなくなりますからね」
僕は自分を恥じた。一瞬、パムの事を仲間を出し抜いて稼ぐ、金に汚い奴だと思ってしまった。デュパン達が海で遊んでいる間、パムは重いずだ袋を担いでせっせとみんなが遊ぶための資金を稼いでたんだ。
「お前、なんであいつらにそこまでしてやるんだ?」
「え、当然じゃないですか、おいら冒険じゃあんまり役にたたないし、せめておいらの出来る事をやらないと」
働き者で馬鹿正直者だ。パムの姿と昔の自分がかぶる。こういう奴には幸せになって欲しい。
「これに手をあてろ」
新しいタブレットをパムに突き出す。
「え、こうっすか?」
パムの手をタブレットが認証取得する。監理者権限を移譲し個人領域を確保してやる。
「こいつを使え。使い方はマイに習え」
パムにタブレットとスマホを渡す。正直これらの機能については僕よりマイの方が詳しい。
マイが説明するたびにパムの顔が明るくなる。なんかそこまで喜んで貰えると嬉しいな。
「ザップさん、ありがとうございます」
パムの目にはうっすらと涙がうかんでいる。喜びすぎだろ。
涙が移ったらかなわない。僕は軽く頷きギルドを後にした。