夜の海
星明かりの下砂浜に座り打ち寄せる波を見ている。
黒い海から途切れる事無く打ち寄せる波は、綺麗であるけど、少し怖ろしい。何度も溺れかけたのもあるが、やはり大きなものや余り馴染みがないものに対しては本能的に畏怖するものなのかもしれない。
宝石箱をひっくり返したような満天の星の中を流れる幾つもの星が集まった光の帯、天の川が見える。銀河ともミルキーウェイとも呼ばれるそれを砂浜に寝っ転がって眺める。とても綺麗だ。そう思えるのも心に余裕が出来たからだろう。
子供の頃はよく星を眺めていた気がする。星を見なくなったのはいつからだろう。星だけじゃなく、道端に咲く花やひらひら舞う蝶々などにもその美しさに心惹かれていたものだ。あと、空の面白い形をした雲や、夕焼けの美しさに感動したりもしてた。
大人になるっていうのは、そういう当たり前でたわいないものの美しさを忘れるって事なのかもしれない。
親の庇護を離れ生きて行く事に夢中になり雑事にかまける余裕がなくなるのは当然だし必要な事だと思う。僕で言うならば、【ゴールデン・ウィンド】のパーティーにいた時、荷物を運びながら、ああ空が綺麗だなんて言ってたら、間違いなく戦士ダニーあたりにしめられてた事だろう。
けど、ふと余裕がある時に自分を取りまく美しいものに気付ける心は持っていたいものだ。
今、ここにいるのは僕だけだ。砂浜での食事を終えて、さっぱり片付けて、一本締めで解散した。『一本締め』というのは、最後にみんなで柏手を打って会の終わりを寿ぐものだと思われるが、冒険者で一般的なのは『イョーオッ』『パン』と1回叩くだけのやつなので注意が必要だ。一般的には一本締めといったら、掛け声のあと、『パパパン、パパパン、パパパンパン』と、3、3、4拍するものらしいので、業界慣れしてない者が暴走する事がある。だから最近は最初に『一本締めするが、手を1回叩くやつだ』と一言加える事にしている。もっともそれでも暴走する奴がいるが。
そして、締めのあと三々五々リナのワープポータルで帰って行った。今回はサービスで無料だが、次からは海へのポータルを使う時はお金を取るそうだ。小金貨1枚。結構な金額だが距離があるので起動に魔石というのが必要でしょうが無いらしい。まあ、けどちょうどいい。多分ずっと海にいたら完全ニートになってしまいそうだからな。
ちなみに今僕達がいるところは海に突き出た半島で、ざっくりと下に向いたCの字の形をしてるそうだ。真ん中にある海は入り口に浅瀬があるので滅多なことが無い限り魔物や巨大生物が入ってくる事はないという。けど、人魚ナディア言うには今はシーズンでビーチは芋洗い状態で、馬鹿みたいな金額を払って貴族の所有している土地に行かない限り泳ぐのも難しい状態だそうだ。それで目を付けたのがここ外海の天然ビーチという事だ。ここは半島の右下あたりに位置し、大海に晒されてるので特に魔物などが多く、しかもここに生息する巨大な魚介類を食べる為に巨大生物が集まる所だそうだ。特に巨大かには水竜の好物だそうだ。だから問答無用で襲いかかってきたのか。
けど、水竜と次戦うときはそこまで苦戦しないだろう。水竜の肉を食して『耐電』のスキルを手に入れたからだ。そして、その水竜のスキルガチャで、当たりを引いたのは…
「ザップー帰るわよー」
波の中から1人の薄く光る猫耳少女が現れる。『放電』のスキルを引き当て、水中では多分無敵になった、マイ様だ。夜の海の浅瀬で自分が光り泳いでいた。僕には無理だ。巨大生物の出る海で光りながら泳ぐって気を抜くと食われるのではないか?
僕は収納からタオルを出してマイに渡す。ここで夜泳がせるのはこれっきりにしよう。心臓に悪い。お金を払っても安全な所を探す事を心に誓った。
そばで寝ているアンを叩き起こして、僕達も帰途についた。
また、海に来よう。もっと戦えるようになってから。
最強の荷物持ち『海上編』完結?