海鮮バーベキュー
僕の家と同じくらいの大きさのコンロの上にそれを覆っている巨大な金網、コンロの中には丸太のような木炭が空気の通り道を確保して並べてある。
壮観だ。巨人のバーベキューセット、北の魔王リナが本国から持ってきた物だ。そこに手に入れた食材達を並べる。マイがリナの大剣でさばいた穴子みたいになった水竜、アンと無心に狩った巨大渡り蟹、爆散したクラーケンの足、それにアンジュたち少女冒険者が取ってきた巨大なホタテやサザエ、それに戦士デュパン率いる『フール・オン・ザ・ヘル』のパーティーが収穫してきた巨大ロブスター。
金網にそれらがどっさりと乗せられ、みんな感嘆の声を上げる。アンがドラゴンブレスでコンロに着火する。いつもは高火力過ぎるのだが今日はちょうどいい。いつか僕もブレスを吐けるようになりたいものだ。
基本的には魚介類は長持ちしないから貴重品だ。それをしこたま食するというのは冒険者の夢の内の1つだ。
けど、僕の頭に3つ疑問が浮かぶ。
1つ、食材が巨大である必要はあるのか?
2つ、なぜ、リナは巨大バーベキューセットを持ってきたのか?
3つ、これ全部食べきれるのか?
取り敢えず、そばで巨乳を揺らしているこの中で自称頭脳派を称する魔法使いのルルに疑問を投げてみる。こいつは僕を主人公とした小説を王都で売ってるらしくそこそこ売れているみたいだ。賢いには違いない。
「まず、巨大は、小さいよりも素晴らしい事だと思う」
ん、こいつは自分の事言ってるのか?取り敢えず頷いておく。それには異論はない。サングラス越しの僕の目は2つのウォーターメロンに釘付けだ。
「ザップ、もしかしてここのビーチの名前知らないで来たの?ここの名前はジャイアントビーチって呼ばれてて巨大生物の群生地よ地元民は決して近づかないわ、冒険者も」
やっぱそうか…薄々気が付いてた。それよりも、こいつまで、僕を呼び捨てしてやがる。ひと思いにそのウォーターメロンもいでやろうか?
「あと、食べきれなかったら収納にしまっとけばいいじゃない?」
「そーだな、けど、劣化しなくても焼きたてが美味しく感じる。このライブ感がないと只の魚介料理にすぎないよな」
辺りを香ばしい香りが包んでいく。
ん、そういえばこれどうやってとりわけるんだ?
「ウォオオオオッ!」
見ると魔王リナが気合を入れて体の回りを気炎が覆っている。
「耐火を纏いわらわに続け!ゴッドスレイヤー!」
魔王は大剣片手に跳び上がりコンロの上に乗り食材共をバッタバッタと斬り伏せる。そして持っている皿に幾つか切り身を乗せて帰ってくる。
なんと…命がけで取って来るしかないのか?なんてお馬鹿なバーベキューだろう。
元大神官のシャリーに耐火の魔法をかけて貰い、冒険者達はコンロの足を登って切り身を手にしコンロから飛び降りる。暑い中火の中に飛び込むなんて正気の定めじゃない。
「ザップー、取ってきてー」
マイが僕におねだりする。マイなら何もしなくてもあの程度の炎はレジスト出来そうだが。
「マイ君、俺は何だ?」
「ん、荷物持ち?」
収納ポータルを飛ばし、いい感じに焼けた水竜の切り身を収納に入れてマイの皿の上に出す。マイは上機嫌だ。
しばらくして、僕の前にみんな順番並んで食べたい物をリクエストしたのを取ってやる。僕以外は収納のポータルをここまで意のままに扱えない。威厳回復だ。けど、呼び捨てはそのままだった。
僕達はお腹一杯になるまで食べた。やっぱり大勢でする食事は最高だ。残りはドラゴンのアンが殻や骨身ごと平らげた。こういう時は便利だ。特に個人的にはかに君は絶品だった。