続水竜
次第に明るくなっていく海の中を浮上しながら考える。
これって結構やばいのではないか?
水竜は海の中を自由に動けてしかも強力な雷系の攻撃手段を持っている。どれだけの頻度で雷を放てるか分からないが全方位攻撃に見えたのでかわす手段がない。
逃亡しようにもジブルは海の底、マイはさっき浮かんでいっていた。ドラゴンのアンはどうなったか分からない。彼女たちを置いて逃げるという選択肢は無い。
やるしかないか。
痺れが収まってきたので収納から愛用のミノタウロス王のハンマーを出し握りしめる。収納ポータルを体の回りに浮かせて移動の準備をし水竜を探す。いた、けっこう下の方に巨大な首の長い影が見える。
『いくぜ!』
声が出ないのもなんか調子悪い。攻撃する時には叫びたいものだし、雄叫びなしだとなんか攻撃力が1割減のような感じだ。
収納にスピーディーに水を出し入れして、みるみる水竜に近づく。
『ドウリャーッ』
心の中で叫んで、目の前の巨大な水竜にハンマーを叩き込む。どこを叩いたのかは分からないが的は大きすぎるので簡単に当てる事ができた。けど、水の抵抗が大きくしかも踏ん張る事もできず、撫でたぐらいにしかならない。多分これではゴブリンも倒せない。邪魔なので収納にハンマーをしまう。
リザードマンや、海の神様が持ってる武器が槍であることの意味を悟る。海の中では刺す事か切る事しか出来なさそうだ。打撃は全く役にたたない。斧も駄目そうだな、あれも叩き切るものだし持ってる奴はデカイのでさらに水の抵抗で扱いにくそうだ。
ん、目の端に何かがよぎる。ヒレ? そう思った時にはでっかい丸太みたいなものが視界に入り体に触れる。
『ぐあっ』
声にならない叫びを上げる。打撃は大したこと事無いからインパクトの瞬間にヒレをひっ掴んでやろうと高をくくっていたら、なんとヒレには固い鋭利なギザギザがついていて剥き出しの僕の体を両断しようとする。血を赤い霧のように撒き散らしながら、すぐ距離をとりエリクサーを収納から出して自分にかけようとするが、拡散してか一気にいつも通りの全快に至らない。
海の中不便過ぎるだろ……
口の中にエリクサーを発生させ呑み込む事でどうにか傷を癒す。
くそっ、手足のついた穴子のくせに生意気な!
最強の荷物持ちザップ・グッドフェローの恐ろしさを見せてやる!
無理矢理自らを鼓舞し、僕は水竜と対峙する。水竜はじっとしている。
奴の体が光始める。力を貯めていたのか…雷か?
光が放たれた瞬間、僕の回りの海水を収納にしまう。同じ攻撃をまともにくらってたまるか!
ビリビリッとくるが最大出力さえしのげばなんとか動ける。
『剣の王』
僕はポータルを射出する。それから勢いよく無数の剣が飛び出す。かろうじて水竜に当たるがダメージは無い。けどこれでいい。目くらましだ。剣を打ち出すポータルはそのまま、水竜の後ろに高速移動し、一気にその首筋に近づき貼り付く。首は太いがなんとか両手でしがみつける。
圧殺!
まるでハサミで切るかのように両腕で首を押し潰す事を繰り返し、血霧で見えない中、水竜の首をねじ切ってやった。
なんとか水中戦の方程式ができあがったな。
近づく、くっつく、近づくで倒す。
泥臭すぎるな……こんどもしもの為に槍を買おう……
魔法が切れるまで時間が余りないので、急いで水竜と出した剣を収納にしまい、気絶していたジブルを回収した。水面に上がりマイも回収する。彼女たちの腰の所を支えているのだが、たまにどうしても胸が手に当たる。これは不可抗力だ。ぷかぷか気絶して浮かんでいたドラゴンのアンを見つけて起こす。まだ、水中呼吸の魔法は残っていたが、アンの背に乗って陸地に戻った。