願い
強い者と戦いたい……
もっと強くなりたい……
そう願った僕の足は自然と古巣の『原始の迷宮』に向かっていた。
『原始の迷宮』、またの名を『太古の迷宮』という。かつて僕が1人戦っていた場所。マイとアンと出会った場所。
その正体は古竜アダマックスが地下深く封印された己を解放する者を求めて作った、深く深く進化し続けている迷宮。
最近まで公的には冒険者の最終到達階層は僕がかつて所属したパーティー『ゴールデン・ウィンド』の地下39層だったが、最近その記録は塗り替えられた。彗星のように現れた現在の王都での最強のパーティー、最優戦士デュパン率いる『地獄の愚者』が地下49層を踏破した。
まぁ、もっとも僕やアンジュ率いる少女冒険者4人は既に踏破しているのだけど、余り目立ちたくない僕らは公表していない。
前に行った時にアダマックスがアップデートするとか言ってたが、今回は地下49層までしか行かない予定だ。そこのボスのドラゴンが今回の獲物だ。
今回のパーティーメンバーは、僕とマイとアン。
メインの作戦は僕が戦う、マイが素材になるものを拾う、アンがドロップアイテムを拾う。飽きたら交代、シンプルだ。
「うわ、人多いわね、なんか明らかにここに住んでる人いるわね」
マイが眉をひそめる。
入り口は人がごった返していて、食べ物の屋台、武器屋、防具屋、あげくの果てには地下1層には宿屋や銭湯の看板もあった。それに至る所にテントが林立している。小さな町みたいだ。この迷宮の中は温度変化が少なく居心地がいい。多分避暑地として利用されているのでは?
明らかに冒険者で無さそうな人もいる。なんか、この迷宮は僕のものではないのだが、なんか僕の知らない所になったみたいで寂しい。
気を取り直して先に進むが。わらわら冒険者がいる。ダッシュで降りて行ったが、地下19層までは結構冒険者に遭遇した。
しかも敵がいない。魔物がリポップするたびに狩り尽くされているのだろう。強い冒険者が育っているのはいいことだけど、なにかが違う。
迷宮探索ってなんて言うか、孤独を噛み締めながら手探りで進むものではないのだろうか。
地下20層以下も少しは冒険者が減ったけど、魔物より冒険者が多いのではと思える程だった。地下30層に至ってやっと魔物と遭遇した。
なんか時代の流れを感じながら、サクサク進み、苦労する事もなく地下49層のエリクサーの噴水部屋についた。僕達はつい昔を思い出し、ここで小休止した。
『戦いの中で強くなれる者のみ進め』
ドラゴンのいる所に続いていた扉に今までは無かった文言が書いてある。
「ザップ、なんか嫌な気がしない?」
「ご主人様、どうします?」
マイとアンが僕を見る。けど答えは1つだ。
「大丈夫だ。行こう」
扉を開けて道を進むと、アンがいた大部屋のあった場所に出た。少し様相が異なっている。前みたいに奥が見えない位の大部屋ではなく、そこそこ広い部屋に変わっている。
僕達は部屋を進む。半分位進んだ所で、僕達の前に黒い霧が集まると3体の人型になった。
「うおおおおっ!」
その真ん中の人型が声を上げて駆け寄ってくる。なんか聞いた事があるが聞いた事の無いような声?
「ザップ! ドッペルゲンガーよ!」
マイが叫ぶ。
僕の目の前に現れたのは鏡でしか見たことのない、僕自身だった。
振り上げてきたハンマーをかわす。僕もハンマーを出して応戦するが、軽くかわされる。
その後ろからもう2体も駆け寄ってくる。マイとアンだ!
マイとアンもそれぞれの偽者と対峙する。
強い、なんて強いんだ……
僕の偽者は僕の力を寸分たがわずコピーしているみたいで、僕達は互角の戦いを繰り広げた。
ありがとう。アダマックス。僕の望みを叶えてくれて。
マイとアンも互角の戦いを繰り広げている。3人とも自分自身との戦いが精一杯で加勢できない。
長い間、戦い続けていたが僕は少しづつ押され始める。僕は少しづつ疲労していくが、相手にはそれがないみたいだ。多分こいつらは部屋に入った時の僕達の能力をコピーしているのだろう。戦いで自分自身を凌駕しないと乗り越えられないという訳か。
けど、残念ながら僕は『最強の荷物持ち』だ。
「剣の王」
僕の偽者を残るありったけの力で押し返すと、僕の回りに収納のポータルを浮かべる。
「終わりだ……」
ズガガガガガッ!
ポータルから発生した無数の剣が僕の偽者を貫く。
僕は十分満足した。流石に魔法の収納の能力はコピーできなかったみたいだな。
物理のみでは倒せなかったので、少し釈然としないけど、気をとりなおし、僕はマイとアンの偽者をハンマーでなぎ払った。偽者達は灰色だったのですぐに見分けがついた。
「ありがとう、ザップ」
「助かりました。ご主人様」
「結構やばかったな。まさか自分自身がこんなに強いとはな」
僕達はドロップした黄金色のスキルポーションを拾うと、疲労がはげしいので戻る事にした。もしかしてアップデートで温い迷宮になったのかもと思ったが杞憂だった。またいつかこには来る事にしよう。今度は装備をしっかり整えて。