二天一流
「格闘技は基本的に徒手空拳なものですけど、試合ならともかく、実戦では無手にこだわる必要は無いと思ってます。格闘は勝ってこそ、負けたら死の危険性を伴います。ですが、武器を持っていない状態というのは、武器を持っている状態に勝る点も数点あります、それは、手が空いていると言うことです」
エルフの野伏の僕達の格闘技の師であるデルは、そう言うと、アシスタント? の元ダークエルフ、今は黒光りマッチョマンのレリーフに目配せをする。
今日もいつメン、僕、マイ、アンにデルとレリーフだ。みんなビシッと道着を着ている。
ちなみに街から道着を着てくるのは恥ずかしいので、僕は茂みで着替えている。
レリーフとデルが対峙する。レリーフが今日持っているのは木の大剣、それを大上段に振り上げデルに迫るが、デルは前に出てレリーフの大剣を持つ手を右手で押さえると同時に左の手でレリーフの顎を軽く上に上げる。
流石だ、レリーフとの体格差を逆にアドバンテージにしている。レリーフからはデルが全く見えないはずだ。そしてデルはレリーフの足を刈りレリーフは後ろに倒れる。えげつない事にレリーフの倒れた場所にはデルがしゃがんで片膝を立てている。
ゴスッ!
「うごふっ!」
レリーフはデルの膝で背中を打ち変な声を上げて、大剣を落とし床に転がる。
「膝を入れたのは背中の背骨を外して肋骨の下くらいの腎臓の裏の場所です。この手の肋骨に囲まれていない所はだいたい強打すると、横隔膜がびっくりして呼吸が出来なくなります。これって怪我してる訳ではないので、ポーションやエリクサーとかでも瞬時に回復しないので気をつけてください」
そう言うとデルはレリーフの手を取って立ち上がらせる。
「両手武器は強力ですけど、両手が塞がるという弱点と、遅いという弱点があります。同じ力の者だったら、大剣を持ち上げて振り下ろすよりも、素手で殴りかかった方が速いです。武器全般に言える事ですが、大きく長くなるにつれて速度は下がります。ですから、打撃系でなく柔系の格闘技は、ぱっと見は武器は天敵に見えますが重戦士とかにはかなり有効です」
デルの言葉にマイの顔がパッと明るくなる。
「そうよね、重戦士って固いし重いし正直厄介な相手だと思っていたけど、出足払いとかで転倒させてさらにそれを加速してやったら地面に叩きつけられて、自分の重さでダメージくらうわよね」
それはいい、それなら僕も手加減できるしな。もし重戦士と戦う事があったとしても、ハンマー無しでいけそうだ。
「それと、今日の技の肝ですが、さっきの様に大剣を受けたと同時に攻撃する事です。防御と攻撃を同時にするとほぼかわせません。これは異世界の伝説の剣匠の技です。彼は大小2本の剣を携え、防御と同時に攻撃する技で生涯負け無しだったと伝えられてます。その流派は二天一流と言うそうです。けど、防御と攻撃を同時にすると、どうしても力が分散するので威力の無い攻撃になりがちです。さっきみたいに柔術に繋げるか、重心移動を利用して生きた攻撃が出来るように練習しましょう」
防御と一緒に攻撃する。理には適っているが言うは易く行うは難し。僕達、特に僕は難儀しながら練習を繰り広げた。