夜の散歩
なんか眠れずに外に出ると、足下に変なものが落ちていた。虫? そうだ、虫だ。けどその虫は、なじみ深い夏の虫ではあるのだが、いささか風情が違っていた。
茶色い虫、それはよく見るセミの抜け殻みたいなものだったが、抜け殻との違いは中身がはいっていて、割れた頭の所から、更に頭がはみ出していた。セミの幼虫、しかも木にしがみつく前に穴から出る方向を間違えて平地で羽化しかけているお間抜けさんだ。
とりあえず、気持ち悪いけど拾ってみる。見れば見る程気持ちわるい。茶色のセミの抜け殻から頭が出てて、やたら胴が長いセミの抜け殻に見える。どっか木にくっつけてやろうかと思うが、その足はもう動かずそばの木とか壁につけようとするが、くっつかない。その幼虫の胴体を掴んでいると、何だか奴は頭を振って動きはじめた。茶色い体から徐々に白い本体が出始める。昔子供の頃に見た事があるが、セミって抜け殻からでて、なんかブリッジみたいなのをしてそれから木にへばりついて羽根を伸ばしてたような気がする。
まあ、どうしたらいいかわからないのでとりあえず、奴を持って、足を木につけて自然の状態を再現してみる。徐々にセミは幼虫の抜け殻からはみ出して来て、抜け殻にお尻が刺さっているだけになる。僕は木だ木の一部だそう自分に言い聞かせながら、セミの羽化をサポートしてやる。
正直、今、僕は何をやっているのだろうかと疑問に思うが、何年も土の中で生きて来たセミに、お天道様を拝ませてやりたいものではある。僕がかつてダンジョンに潜っていた時、そのあと地上に出た時の感動は忘れられない。このお間抜けなセミにもそれを味わって貰いたい。そう思い、僕は蚊に食われ、蟻にたかられながらもセミを持ち続ける。
ポトッ!
お間抜けなセミは事もあろうか、抜け殻から地面に落ちやがった。なんかぶよぶよするそいつを優しく掴み、そいつの足を木に近づけてくっつけようとする。セミは足をわきわきするが、力無く、木にはしがみつけない。
「頑張れ! しがみつけ! 気合い入れろ!」
セミの腹を握り木につけてやるが、その足は木を擦るだけだ。
もしかして、殻から出たばかりで、体同様足もまだ柔らかくて力がでないのでは?僕はそう思い、しばらく手のひらの上にセミを置いて、セミに休憩を与えてやった。
しばらくすると、セミ奴はお腹を動かし始めた。もしかして、木につけろと催促しているのか?
僕は木に奴をしがみつかせてやる。果たして奴はしっかりと木をグリップした。
白い体に黒い目、正直、すこしセミ奴は綺麗に見えた。
背中の所でくしゃくしゃってしていた羽根がみるみる伸びていく。透明な羽根には薄い緑色の線が入っている。羽根はしっかり伸びきったように見える。けど、僕からみて右の羽根のほうがなんか短く見える。もしかして、僕が触ったから綺麗に羽根が伸びきらないのでは? 僕はドキリとする。けど、僕がいなかったらこいつは道で羽化してしっかり羽根も伸ばせず飛べないセミになったはず。僕は最善を尽くした。後はこいつの問題だ。僕は羽根がしっかり伸びる事を祈りつつ、セミをじっくりと眺める。
僕の願いが通じたのか、右の羽根も先までしっかり伸びた。もう大丈夫だろう。けど僕がセミをしがみつかせたのは木の下の方だ。猫とかネズミとかに食われたら、なんか悲しい。
ザザザッ!
セミ奴は木から手を離して地面に落ちやがった。拾ってまた木にしがみつかせる。手がかかる奴だな。僕はしばらくセミ君を見守ってやり、頭をつんつんして、しっかり木にしがみついていることを確認して、家に帰った。
まさか、セミの羽化の手伝いをする事になるとは。お間抜けなセミなので、しっかり体が固まるまでは面倒見てやろうと思います。眠いですー。
世界広しといえども、今、セミの手伝いしてるのは私だけなのでは。今、少しづつ色がつき始めてます。がんばれ!
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