荷物持ちの妹
「それでザップの妹は、今何処にいるの?」
マイが僕に尋ねる。その隣では、ドラゴンの化身のアンが穏やかな寝息をたてている。
ここは家の隣のレストラン『みみずくの横ばい亭』だ。今日はちょっといいことがあったので、美味しいものを食べて、1杯だけエール酒をいただいた。
僕はあまり昔の事を話すのは好きでは無いのだが、マイに請われて、お酒の影響もあったのか、僕が幼い時に魔法の収納のスキルを手に入れた経緯を話した。
ウェイトレスの元聖教国の大神官のシャリーが聞き耳をたてている。
おい、ちゃんと働けよ。
けど、別に隠すような話ではないし、僕と記憶を共有したラパンはだいたいの事知ってる筈だしな。
「妹は、今、帝都にいる」
「何してるの」
「全寮制の学園で学んでいる」
「えー! 帝都の学園って、もしかして、メトロポリタン帝国学園ですか?」
シャリーがここで食いついてくる。
「ああ、多分そこだ」
うん、確かそんな名前だった気がする。
「うわ、ザップさんの妹さん、ザップさんと違って頭いいんですね」
シャリーが普通に驚いている。そう言えば、その学園ってかなり入学するのが大変だったと妹が言ってた気がする。
ん、シャリー、軽く俺をディスったな!
「おい、俺と違っては言い過ぎだろ。そんなに俺は頭悪いのか? お前もどっこいどっこいだろ!」
「何言ってるんですか、私はこう見えても聖教国の大神官なんですよ、学問に関してはそりゃもういい感じですよ!」
シャリーがどやるが、メイド服でアクセサリーをジャラジャラ付けてる今の格好では全く説得力が無い。むしろ普段着の僕より数段頭悪そうに見える。
偏見ではあるが、シャリーのような胸の大きい女性と筋骨隆々の男性は頭が良さそうに見えない気がする。って、僕も結構いいガタイしてるな。ブーメランか……
「んー、ザップは決して頭悪くはないとは思うけど、見た目の問題だと思う。戦闘でも気が付いたらだいたい腰巻きとマントにハンマーってスタイルになってるから、ザップの事知らない人が見たら、まずは頭いいか悪いかの前に、人語を解するかどうかって思うと思う。あたしも最初そうだったわ」
う、ひどい、冷静に解析しないで欲しい。決して半裸が好きな訳では無く、成り行きでそうなってる事が多い訳で……リナの魔国に格好いい文明的な燃えない服って無いだろうか?
無理やり妹の話に戻す。僕は収納のスキルを手に入れたあと、元気になった妹を連れて故郷を離れ転々として帝国の帝都に流れ着いた。
なけなしのお金で妹を学校に通わせ勉強させてたら、みるみる伸びて、妹は奨学金を貰って全寮制の中等部に通い、高等部にも難なく合格して今に至る。妹は僕と違って魔法の素質と戦闘系のチートスキル持ちだ。中等部に上がって寮に入った時に僕は妹とは別れた。
「ザップの妹って義理の妹なのよね」
マイが神妙な顔で僕を見る。何なんだ?
「ああ、そうだが、最愛の妹だよ」
「最愛……」
「最愛……」
「最愛……」
マイ、シャリー、狸寝入りだったと思われるアンが僕の顔を見て絶句している。本当に何なんだ?