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 始まりは強い思い


 遠い遠い昔の記憶。


 幼い僕は1日中薬草を集める。背中の籠がいっぱいになるのはいつも夕方。ただ、妹の事を考え山の中を裸足で歩く。

 いつもの隣の村の店で薬草の半分は買ってもらい、半分は食べ物に換えてもらう。

 その日は、初めて見た店の片隅にあるキラキラしたガラスの瓶に入ったものに、つい目が止まってしまう。


「それは、飴玉だよ。1個銅貨3枚だよ」


 店主の老婆が愛想無く口を開く。


「飴玉ってなんだ?」


「とっても甘いものだよ」


 甘い?


「木苺や野苺みたいなものか?」


「いんや、もっともっと甘い」


 もっと甘い!!


 もしかしたら、もう悲しそうに微笑む事しかない妹も、それを食べたら心の底から笑ってくれるかもしれない。


 僕はその赤や青や黄色のキラキラした飴玉という物から目が離せなくなる。銅貨3枚、それは今日の稼ぎと同額だ。それは貯めて生活に必要なものを買わないと……


 僕は引き離すように無理やり目を逸らすと店を出た。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ザップ、新しい母さんと妹だ。仲良くするんだぞ」


 父さんは僕の頭を乱暴にわしゃわしゃした。僕を生んだ母さんは、僕を生んだ時に亡くなったそうだ。幼い僕を育ててくれたのはおばあちゃんで、少し前に流行り病で亡くなった。

 お父さんが紹介した新しい母さんは、まるで教会の神様の絵の中の人のように、とってもとっても綺麗だった。父さんとはいとこにあたるそうだ。

 その母さんが抱いていたのはそれもまたとても可愛らしい女の子だった。

 新しい母さんとは、最初の内は僕は恥ずかしくて余り話す事も出来なかったが、いつの間にか本当の母さんと思える程に仲良くなっていた。妹とも程なくして本当の兄妹みたいに仲良くなった。

 母さんは僕に沢山のものをくれた。なぜそんなに博識だったのか今はわからないけど、とっても色々な事を知っていて、僕に読み書きと計算を教えてくれた。出来の悪い僕だったけど、先生が良かったのだろう。程なくして僕は最低限はそれらが出来るようになった。


 その日の僕は昔の事を思い出して泣きながら家に向かった。けど、家に帰るときには涙を拭い、笑顔を作る。


「ただいま」


「お帰り、にいちゃ」


 妹が消えてしまいそうな微笑みで僕を迎える。

 その頃、妹は食が細く日に日に痩せていっていた。

 僕達は今日1日の事を話して、水浴びして一緒に寝た。


 次の日また山に出かけた。僕はこの時薄々感じていた。このままだと妹は痩せ細って死んでしまのだと。

 薬草を集めながら考える。どうにかしてもっと薬草を運べないかと。今のまま背中の籠1杯しか集められないのならば、ずっと今のままだ。余裕がない。

 貯金を切り崩して飴玉を買う事を考えるが、それではずっとは買えない。僕は毎日、毎日、飴玉を妹に食べさせたい。そしたら妹は、もしかしたら笑ってくれるだけでなく、元気になるかもしれない。

 僕は必死に薬草を集めた。いつもよりまだ日が暮れるのには時間がある。日が暮れるまで薬草を集めて服の中にも薬草を詰めて隣村に行く。けど、力の無い幼い僕が持てる量には限界があった。

 銅貨1枚多く稼げた。運が悪い事に食べ物の値段が上がったそうで、僕の手にしたお金は昨日と一緒だった。


 おんなじおんなじ毎日。少しずつ更に痩せて行く妹。


 僕は、毎日毎日毎日毎日心の底から願いつづけた。


 愚かだけどささやかな願いを。


 妹に飴玉を食べさせたい。


 その為に、もっと薬草を運べるようになりたい。


 もっと……


 もっと、もっと……


 それからしばらくしたある日、僕が手に持っている薬草が消えた。けど僕は焦らなかった。薬草は僕の心の中に入ったように思えた。薬草の事を思うと手に薬草が出て来た。


 今なら分かる、強い思い、強い願いが昇華してスキルが発生することがあると。


 僕は冒険者に成りたかった。叶ったのは愚かな願いだけど、今でも少しも後悔はしてない。


 僕はただ願った……


 毎日、毎日……


 ただ……


 もっといっぱい荷物が持てるようになりたいと……


 心の底から魂の全てを賭けて熱心にただそれだけを願った……


 それから僕はいつもの倍近くの薬草を集めて、妹の好きな色、桃色の飴玉を手に家に帰った。


 けど、笑ってくれると思った妹は、飴玉を口にすると、止めどなく涙を流した。それが高価なものだと知ってたみたいだ。


 それから僕は毎日妹に飴玉を食べさせる事が出来た。そして、妹は日に日に元気になっていった。


読んでいただきありがとうございます。


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