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 剣の王


「行くぞ」


 男は抑揚の無い声でそう言うと、ゆっくりと前に進んで行く。


 男の前にはトロールの大軍。


 闇の先兵である巨人族の末裔たちは、1人で目の前に進んで来たその者の事を、木っ端以下の存在としか捉えていなかった。


 男の周りに無数の光輝く小さな魔方陣が現れる。


 トロール達は若干の魔法感知の力を有している。その魔方陣に込められている魔力は微小なもの、どんな魔法が飛び出そうとも、驚異的な回復能力をもつ自分達を害するものではないと高をくくっていた。


「ごくりっ」


 男を見守る『フェ族』の族長は息を呑む。彼女の後ろには一族の者たちも固唾を飲んで見守っている。

『フェ族』は密林に住むアマゾネスの一族。アマゾネスは女系部族でその者たちは一騎当千の強者ではあるが、強力な回復能力を持つトロールとは相性が悪い。どんなにトロールを射抜こうが刻もうとも、一撃の悪鬼の攻撃で形勢は逆転する。

 トロールを分断しながら個別撃破するという戦術でここまでなんとかしのいできたが、それも相手に悟られて軍をもって進んでくる奴らには後退するしか手が無かった。

 恥をしのんで、『フェ族』の族長は長年の怨敵である王国に協力を仰いだ。

 大軍の来援を期待していた彼女は大いに落胆する事になる。

 応援として来たのは一組の冒険者。鍛えてはいるだろうが風采のぱっとしない男と、獣人の娘と、魔族だろうか小柄の角を生やした娘と、見るだけで心が洗われるようなまるで地上に降り立った天使のような魔法使いの少女だった。

 彼女は半信半疑で男に全てを任せる事にした。男がやられたら、だだ逃げればいいだけであるし。

『フェ族』の者たちと男の仲間が見守るなか、男が口を開く。


「蹂躙せよ」


 男がゆらりと右手を上げる。魔方陣の光が強くなる。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!


 見ていた者は耐えられず耳を塞ぐ。


 男を囲む魔方陣から無数の剣が現れ、トロールごと辺りの木を岩を大地を穿つ。


 音が消えた後にはただ地獄だけが残っていた。


 原型をとどめぬトロールだったものと、木々がなぎ倒された森だった所。あと墓標のように散らばる数千の剣。


「帰るぞ」


 男が振り返ると地獄は消え失せ後には血塗られた更地だけが残り先刻の事が現実だった事を伝えている。


「剣の王……」


 族長の娘の呟きが静寂を破った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ってこんな感じです。これでいいですか?」


 魔法使いのルルは今切り株に腰掛けて、自分の書いたドキュメンタリー小説を朗読している。


「なんか、俺たちとルルの扱いに差を感じるんだが……」


 僕はせっせと収納から剣を出す思いっきりポータルに剣を投げ込むを続けている。例の攻撃方法は格好いいけど地味な地道な仕込がいるのが難点だ。最近読んだ小説からパクったものだ。


「それと、せっかくだから、俺とアマゾネスたちのその後も書いてくれよ」


「ダメです。読者の方が望んでいるのは硬派なザップ兄様ですから」


「ザップー、ルル、ご飯出来たわよー」


 マイが僕達を呼ぶ。


「ご飯、ご飯」


 アンがはしゃいでいる。


 とりあえず飯でも喰うか。アマゾネスたちとのその後はまたいつか……



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