サブウェポンにダガーはいかが?
「ヴォーパルダガーって言うみたいよ、かなりの切れ味で結構珍しいものみたいよ」
マイが、美しい文様の入ったダガーをためつすがめつ観察している。
ここは『アヤノクニの迷宮』の最深部、ラスボスだった巨大兎をたおしたら、一本のダガーがドロップした。それをマイが鑑定している所だ。
「いいものでも、ダガーですか……誰かこれを扱える人いますかねー?」
ドラゴンの化身のアンが大兎の焼いたもも肉を頬張る口を休め誰とはなく話す。
「そうだな、そう言えばダガーって獲物を解体するときにしか使った事ないな、メイン武器に使うのはスカウトくらいなものだろう」
スカウトというのは、いわゆる盗賊のようなものだ。正直違いはわからない。罠の解除や宝箱の解錠、敵の探知や気配を消して潜んだりとか冒険者には必須なスキルを持つもの達だ。僕の仲間にはそういう職業の者は居ない。
誰かスカウトいたっけなー?
あ、いた。パムだ。少し前に出会った吟遊詩人のパムは多分それだ。メイン武器もダガーだった気がする。パムにこのダガーは売ることにしよう。僕らは迷宮を後にした。
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「えー、まじいいんすか、このダガーが大金貨1枚は安すぎでしょ!」
王都でパムを見つけて商談を持ちかけると思いの他喜んでる。なんか謎の小躍りしている。
「けど、いいんすか? これサブウェポンにした方がいいんじゃないですか?」
言葉と裏腹に、パムはひっしとダガーを抱き締めている。こいつ武器マニアなのか?
「サブウェポンもなにも、俺たちはこいつを使いこなせないよ」
「え、ザップさんたち、ダガーの良さを知らないんですか? そりゃよろしくないです。そうだ、このダガーを売ってくれたお礼においらがダガーワークをレクチャーするっす。自慢ではないですが、多分おいらのダガーワークは王都でもトップクラスだと思うっす」
そして僕達は王都の冒険者ギルドのトレーニングルームでパムからダガーでの戦い方を学ぶ事になった。
「ザップさん、ダガーでの戦い方の基本は相手に血を流させる事です。リーチが短いですのでじわじわと相手の末端を攻撃して弱った所で、正中線、体の真ん中にある急所をついてとどめを刺します」
僕がゆっくり振り下ろした木剣を、パムは木のダガーでそらして軽く手首を薙ぐ。そしてまた振り下ろした剣をそらして交錯しながら僕の脇を薙ぐ。
「刺したら抜けなくなるかもしれないので、このように少しづつ切って行くのが基本です。手足の内側の方には動脈が走っているので、首の動脈を含めそこを狙っていきます。動脈を切ったら、大量に血が噴き出すので相手に回復手段が無かったら勝利確定ですし、もし、魔法とかで回復しても失った血は戻らないのでかなり相手を弱体化できます」
おお、僕の戦い方とは真逆な戦い方だ。けど、パムと僕が同じ力だったとしたら何度もやられているだろう。
「パム、ダガーって結構厄介だな。俺とは相性が悪すぎる。お前たちダガー使いが苦手なのはどんな敵なんだ?」
「そうっすね、一撃必殺の力押しの戦い方をする人、要はザップさんのような方です。一撃をさばけず、かわせず、一撃死してしまうっす。正直、技の入り込む余地がないっす。そういう敵に会ったら、一目散に逃げ出すっすねー……」
ん、僕が苦手なのはパム、パムが苦手なのは僕?
「だから、このダガーが最高なんすよ、このダガー武器破壊特化ですからねー! ですから、メイン武器を破壊されたときのためにサブウェポンにダガーもってたがいいっすよ、近距離でしたら、魔法の収納から武器出すよりもどっかにダガーもってた方がすぐに攻撃できますよ!」
やたらダガー押しだな? ダガー屋の回し者なのか?
「パム君、なんでそんなにダガーが好きなの?」
マイがパムの顔を覗き込む。パムがみるみる赤くなる。
「なんか、ダガーっておいらみたいだからだよ、おいらちっこいし、ダガーもおいらも役に立つってみんなに知って欲しいんだ……」
「パム、何言ってるお前がいてみんなとっても助かってるだろ、俺たちにもっとダガーの使い方を教えてくれ」
そして僕達は日が暮れるまでダガーの訓練をした。