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 星に願いを


「せっかくの七夕なのに、今年も曇りね……」


 僕とマイは屋根の上、もしかして晴れるかもしれないと思いながら空を見てるが、いっこうにその気配は無い。


 なんか最近は何らかのイベントがあるたびにみんなで集まってご飯を食べてお酒を飲むようになった。お腹いっぱいになって、飲める歳の者はお酒を飲んで、みんなもう寝てしまっている。

 今日は七夕祭り、東方から伝わって来たまだあまり馴染みの無い祭りだ。竹というなんか変わった木を飾り付けて、紙に願い事をかいてくくりつけると叶うと言う。東方のお伽話では、天の川に阻まれた、恋人たち同士の星の神様が1年に1回会える日だそうだ。


「ザップ、知ってる?今日降る雨って、女神様が恋人に会えなくて流した涙って言われているのよ……」


 さっきからポツリポツリと雨が降り始めた。


「そうか、女神の涙か、って女神、涙多すぎるだろ、それにそもそも雨が涙ならしょっぱいんじゃないか?」


 横を見ると、マイがじっと僕の方を見ている。無言だ、なんか悪い事言ったかな?


 しばらく、僕達は何も言わず座っていた。


「……なんて言うか、ザップっていつもそうだね、夢が無いっていうか……」


 マイが低い声で呟く。


 それからマイはまたしばらく何も言わなかった。


 僕も何を言ったらいいのか解らず、口を開けなかった。


 空を見るが、曇っていて星1つ見えない。なんか、気まずい。


「1年間会えなかった恋人同士が会えなかったんだよ……」


 やっとマイが口を開き、僕はその横顔を見るが、暗くてどんな表情をしてるのか解らなかった。


 僕はゆっくり立ち上がる。


「会えなくなっても、俺ならどうにかして会いに行く」


 僕は収納から魔法の絨毯じゅうたんを出す。魔道都市アウフから、目ん玉が飛び出る程のお金を払って一日レンタルした。僕は魔法の絨毯に飛び乗ると、マイに手を差しだす。


「お姫様、星を見に行きませんか?」


 僕は吟遊詩人の唄う英雄譚サーガの言葉を借りる。何も持ってなかった若者が、勇気1つで魔神と魔法の絨毯で王様になる話だった。


 ポツポツの雨が少し強くなった気がする。マイは固まって動かない。


 そして、僕の差し出した手をマイは掴んだ。


「はい、喜んで」 


 僕はマイの手を握り、絨毯の上にマイを引き上げる。そして、ぐんぐん高度を上げていく。


「なにこれ、凄い、本当に本当にあったのね」


 マイは絨毯から身を乗りだして、下の方を見る。僕も見てみると、遙か下の方に幾つもの光が見える。町の灯りだな。マイも魔法の絨毯の話はしってたみたいだな。


「マイ、突っ込むぞ!」


 更に高度を上げて僕達は雲の中に飛び込む。


「キャッ」


 雲に入る時、マイが僕の手を強く握る。


 そして雲を突き抜ける。


「雲って、雨なのね」


 ちょっと違うと思うが似たようなものだろう。僕は初めて雲に突っ込んだ時はもっと驚いたのに、マイはなかなか冷静だ。


 そして、僕達は雲の上を漂う。もう雨は降ってない。


「……きれい……」


 マイが呟く。僕達は今まるで、白い海の上を漂っているみたいだ。目が慣れて来て、星が降ってくるかのように増えて行く。


 僕は収納からタオルを出してマイに渡し、自分も出して濡れた体を拭く。


「ザップ、あれ、天の川を挟んでいる星が確か恋人同士の星よ」


 僕はマイに言われた方を見る。天の川を挟んで明るい星が2つ見える。


「今年はきっと、神様たちも会えたはずだな」


「そうね、きっとそうよ……」


 僕達は絨毯の上に寝そべって星を見続けた。マイは僕の手をずっと握っていた。



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