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 メテオストライク


 俺の名前は、ザンジバル・ビクター。王国第七騎士団の団長をしている。

 俺は今、千人の騎士達を従えて、混沌の軍団と対峙している。

 国境付近に魔物の軍勢を見たという情報が来たのが3日前、即座に斥候をとばし確認したところ、ゴブリンやオーク、コボルト等の下級の魔物達約500体が集結してるとの事で、辺境の領主たちから兵を借り受け、千人の騎士をもって討伐に向かった。

 そして、向かった国境付近で我々を待ち受けていたのは魔物達にさらにアンデッドとゴーレムなどを含む概数で二千を超える軍勢だった。即座に本国に応援要請したが、来たのはたった7人の冒険者だった。仮面をつけた男と6人の少女、ふざけているのか?


「祝宴の準備は良好だ。早く完了し来られたし」


 国王直々からいただいたという暗号を解読すると、戦況に微塵もそぐわない脳天気な内容だった。

 ポルスティング王は有能だとの誉れ高いが、誇張混じりだったのだろう。それか絶望的な状況による悲観的な空気を和らげる為の配慮なのかもしれない。要は王の意図は、突撃してヴァルハラへ至れと……


「王は、我々に早く決着をつけて戻って来いとの事だ。祝宴も準備できてるそうだ。いまから突撃する。もしその身が朽ち果てようとも、最後の一瞬まで気を抜かず王国のために尽くしてくれ」


 俺の訓示のあと、各々の小隊長は自分の持ち位置に戻る。

 相手が何故増援を迎えられたのかはわからないけれど、俺達に出来る事は只の時間稼ぎだけだろう。王都に残して来た妻子の事を思い出す。最後の1兵になるまで一匹でも多くの魔物を刈り、愛するものがいるこの国を守ってみせる。

 我々の前方には、悪夢を顕現したような魔物達の軍団が隊列を組んでいる。

 

 隊列?


 先ほどまでてんでばらばらだった、敵軍が一糸乱れぬ隊列を組んでいる。敵には魔物を操る指揮官がいる。その指揮官さえ倒せば我らにも勝機が。とるべき陣形は突撃陣、俺を先頭に矢印のように陣を組み、敵陣に食い込み敵将を叩く。


 俺が与える命をかけた命令に騎士達は従うだろう。俺は微塵も騎士達に不安を与えないように、顔に笑顔を貼り付ける。そして大音声で叫ぶ。


「全軍突撃!王国騎士の誇りを、知らしめてやれ!」

 

 突撃する我が軍の前で敵軍が左右に割れ道を作り、1人の男が前に進んで来る。馬鹿な、多分敵の指揮官だ。前に出てくるとは好機だ。

 男は漆黒のフードつきのローブにねじくれた長い杖、その長い杖にはめ込まれた赤い宝石が光り、ローブをはためかせフードも脱げる。


 魔道士か?


 行くべきか、引くべきか?


 だが我々に選択肢はなかった。敵軍上空が赤く染まり、炎を纏った幾つもの巨岩が空に見える。


「メテオストライク……」 


 曰く、空から流星を呼び出し神の鉄槌を大地に下す魔法。


 曰く、この世に存在する最上位の圧倒的な殲滅魔法。


 曰く、人の身で使える最高魔法のうちの1つ。


 様々な英雄譚サーガに語り継がれ、あの塊1つだけで城壁も破壊するという。我が国には誰一人として扱える者はいない。さまざまな絶望的な情報が頭をよぎる。

 俺を含め勇敢な騎士達誰もが立ち止まる。全て終わったのか。

 神を信じてはいないが俺は神に祈る。武器を収め手を合わせ目をつむる。ああ、願わくば俺の家族だけは無事に生き残って欲しい…………






 …………訪れるはずの滅びが来ない。


 空を見ると我々の前に立ちはだかった人物が空を駆け抜け迫り来る流星をことごとく消滅させていく。仮面の男だ。何が起こってるんだ?




 全ての流星は消え去った……




「騎士団長様、私たちは一度だけ突撃します。後片付けはお願いしますね」


 頭に猫のような耳を生やしたやたら可憐な少女がいつの間にか俺の横にいて、親しみやすい笑顔で話かけてきた。冒険者のうちの1人だったか?


「ああ」


 何を言われたのか理解できずに相づちを打った。少女は駆け出していき、しばらくしてその言葉の意味を実感した。


『メテオストライク』神の鉄槌の魔法ですら彼らにしたら児戯に等しいものだということを。


 空を舞っていた男は地上に降り立つ。その瞬間に彼の前にいた者共が魔道士を含め地上に倒れる。


 1凪ぎだ。


 何処からともなく出した、剣というには信じがたい、恐ろしい長さの武器が振るわれ、彼から同心円内にいたものは全て両断されていた。それをまるで木剣を振るうかのように振り回しながら男は駆けていく。それに続き、あと6条の線が敵陣に刻まれていく。6人の少女が駆け抜けた後にはただ骸のみが残っている。


 そうか、王がよこしてくれたのは7人ではなくて、7000人だったのか。いや、70000人かもしれない。色んな感情が入り混じり俺の頬を伝う熱いものに気付く。涙か?


 流星の魔法を生き延びた事よりも、俺が安堵したのは、仮面の男たちが仲間だったという事だ。魔法は運がよかったら逃れられるかもしれない。だが、あれは無理だ。敵対したら等しく死がもたらされるだけだ。俺は神に感謝し涙を拭う。


「全軍突撃!敵を殲滅せよ!」


 そして俺達は駆け出し、負傷者は出たが誰一人欠ける事無く王の用意した祝宴を楽しむ事が出来た。

 俺は王から教えて貰った仮面の男の名前を深く胸に刻み込んだ。



 『最強の荷物持ち』……


 ザップ・グッドフェロー…………


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