武器のメンテナンス
「そういえば、マイ達の斧はいつ研いでるんだ」
僕は今自分の愛用の武器、ミノタウロス王のハンマーを磨いているところだ。最近は使いっぱなしで、軽く返り血等を拭うだけでろくに手入れをしていなかったので、徹底的に磨きあげている。まずは金だわしでゴシゴシ大まかな汚れを取って、次はスチールウールのたわしで細かく磨きあげて、最後に布でギラギラになるまで磨き上げた。
ハンマーを持ち上げて回しながら出来栄えをみる。パーフェクトだ。まるで新品のようにビカビカだ。いびつに僕の顔も映る。
僕の戦闘スタイルは泥臭いから、せめて武器くらいは綺麗にしとかないとな。
巷には、ベテランに見られたいからと言ってわざと余り武器を手入れしない冒険者もいるが、それはいただけない。
武器は最終的に自分の命を預けるものなので、錆くれて折れたりしたらしゃれにならない。
僕のハンマーも一度だけ折れた事もあるが、あの時は本当に焦った。自己修復能力を持ってるのでくっつけてたら治ったんだけど、冗談抜きでこの世の終わりかのように心が重くなったものだ。
「ん、斧、いつもはちっちゃい砥石でといでるけど、切れなくなってきたら鍛冶屋でといで貰ってるわ。ちょうど今日砥いで貰いに行くけど、ついてくる?」
「そうなのか。行ってみたいな」
僕は誰がどうやって、あのえげつない斧達を砥いでいるのか興味がわいた。マイ達のような人外はあの斧を片手で手斧みたいに振り回すが、一般人は持ち上げる事すら出来ない。僕も最初は荷物持ちで鍛えていた筈なのに持ち上げられなかったものだ。
家を出て下町の方に向かう。そういえばこっちに来るのは初めてだ。最近は雨が多く読書ばっかで引き篭もりライフを送っていたからな。
しばらく進むと町の外れに近づきリズミカルな鉄を叩いていると思われる音が聞こえて来る。
1軒の質素だけど大きな家につく。表には武器を図案化した看板が出ている。マイはずかずかと中に入っていく。中は武器屋で所狭しと武器が並んでいる。値段を見るがピンキリで良心的な価格だ。
そういえば、武器屋に来るのは久しぶりのような気がする。基本的に僕が使うのは拾った武器ばかりだし、武器の買い取りは冒険者ギルドで済ませている。
「おうっ、ねーちゃん、また武器研ぎかい、奥に入んな」
カウンターの所にいた小柄な人物が雑誌から目を離して話しかけてくる。ひげもじゃで小柄で筋肉質なおっさん、もしかしてドワーフって奴か?
奥に進むとそこは作業部屋だった。数人のドワーフ達が働いている。
「おっちゃん、これ、研いでてね」
マイがゴトリと空いてるテーブルに巨大な斧を置く。ドワーフ達はピクンと跳ね、少し変な空気が流れる。
「ああ、いつもありがとうな、おい、お前達すぐにとりかかるぞ」
一番髭の長いドワーフが他のドワーフを呼び寄せる。
「研ぐ所見ててもいいか?」
「いいぞ、邪魔はすんなよ。ほら、ぐずぐずしないでさっさとやるぞ」
その親方っぽいドワーフは奥の方にあるろくろのような機械の方に行く。
「「「どうりゃ」」」
気合いを入れながら、斧の刃の所を2人、柄を1人のドワーフがもって、機械のところにフラフラしながら持って行く。親方が機械のペダルみたいなのを回すと水平な円盤みたいなのが回り始める。ああ、あれが砥石なのか。砥石を回してそれに武器を押し当てて研ぐのか。
チュイーーーン。
斧が砥石に当たり甲高い音がする。親方の指示に従いながら、顔を真っ赤にしながらドワーフ達は斧を研ぐ。なんか見てて可愛そうだ。
「あたしの片手と、ドワーフ3人が同じくらいの力……」
マイがショックを受けている。
「大丈夫だ、マイ、見た目的には腕はまだドワーフ1人分くらいだ」
「ザップの馬鹿!それでも十分太いわよ!」
マイの肘鉄が僕のみぞおちにのめり込む。通った。とても痛い。
そのあとなんか可愛そうなんで、研ぐのを手伝って、ドワーフにマイはお酒を振る舞って貰ってた。強いお酒のはずなのに酔ってないように見える。いつも酔っ払ったように見えたのは演技だったのか……
マイはお酒の強さもドワーフ並みだと思った。