第三十八話 荷物持ち別れを告げる
「ここまで来れば大丈夫だろう。ここで、お別れだ。後は好きにしろ」
今、僕達は地下30層にいる。ここはマイと初めて会った場所だ。部屋には首の無いトロルが三体転がっている。マイが倒した。僕が頭を潰すのが得意なのと同様に、マイは一撃で首を刈るのが得意になった。物騒になったものだ。
部屋にはすでに前に来た時にあった冒険者たちの死体は無い。どうなったかは解らないけど、マイのためには良かった。
ここまでは、再び発生した魔物を狩りながら上って来た。出来るだけマイに戦わせて、危うげな時だけ僕とアイも参戦した。その機会はぼぼ無かったが。
「これからザップはどうするの?」
マイは僕をじっと見て問いかける。
「まだ戦う。ミノタウロス王を倒せるようになるまで」
「そうなんだ……」
マイは顔を伏せた。耳も力無く垂れている。
僕は収納の中からマイのリュックと、あと食料を出す。
マイは強くなったし、ドラゴンのアイもいることだから、問題なく地上に戻れるだろう。
僕は強くならないといけない。記憶の中の『ゴールデンウィンド』のメンバーの戦いを思い出すが、多分今の僕はまだまだ足下にも及ばない。
僕の前には険しくて危険な道が待っている。それに彼女たちを巻き込む訳にはいかない。彼女たちは平和に幸せに暮らしてほしい。
マイはリュックに食料を入れて背負う。
「じゃあたしたちは好きにするわ」
「私はマイ姉様についていきます」
マイは僕の前に立って右手を差し出した。
「ザップ! さよならは言わないわ! また会いましょう!」
僕は差し出された右手を強く握る。小さくて温かい。
「ああ、またな……」
僕は手を離す。
「またね、ザップ!」
「また、会いましょうご主人様」
僕は部屋を出て行く二人の背中を見送った。
ごねるかと思ったけど、意外にあっさりだったな。けど、湿っぽいのは苦手なので、これで良かったと思う。
僕は、一人下層へと向かった。
最初は私の名前は『雅』だったのですが、いつの間にか平仮名『みやび』と表記するようになってしっくりくるので、そのまま平仮名になってしまいました。