盗まれた手紙
「ザップ殿、人払い感謝します。防音の魔法をかけさせて頂きます」
中年のローブを着込んだ魔法使い風の男は魔法を発動させる。僕達を囲んで薄く光るドームが形成される。噂に聞いた事があるが、盗聴防止の魔法だろう。大事な話とかの時に使われるという。
僕の前にはマントを体を隠すように羽織り目と鼻を金属のマスクで隠した人物がいる。
魔法使い風の男と、この変質者が家まで僕を訪ねて来た訳だけど、普段はこんな怪しい人物を部屋には入れない。けど、変質者の露出した口元は確かに見たことのある誰かのそれだった。目元を隠して一言も言葉を発さないので、今の所誰か思い出せない。
外に止めてある、紋は無いけど、明らかに高貴な人物が使う馬車。間違いなく一級品だ。それに魔法使い風の男、変質者、2人とも派手ではないが、間違いなく最上級の品質の服を来ている。それにもかかわらず、変質者から出てる空気は威圧感がなく、なんとなく親しみやすさを感じる。
けど、やんごとなき方が人払いをするとはどんな要件だろうか?
ドラゴン退治?
帝国か聖教国との戦争?
何にしても、世界を揺るがす大事件に巻き込まれるかもしれない。
そして、変態みたいな仮面の人物が口を開く。良く通る堂々とした声。
「久しぶりだな、元気にしてたかザップ!」
「ポルト、ポルトなのか?」
僕はつい身を乗り出す。かつて一緒に一時期旅をした仲間。
王国の現国王、ポルスティングス国王だ。
「急ですまんが、ザップ、お前に頼みがある。盗まれた手紙を取り戻して欲しいんだ」
ポルトが言うには、とある大臣と執務室で話していた時に、ポルトがある人物に出そうとしていた手紙をその大臣にすり替えられたそうだ。大臣の意図はわからないが、その手紙の内容は公表出来るようなものではなく、どうにかしてそれを取り戻したいそうだ。その手紙は間違いなく大臣の城の中の部屋にあるという。大臣不在の時に大勢の部下を使ってその部屋をしらみつぶしに探したけど、その手紙は見つからなかったそうだ。そして、途方にくれて頭に浮かんだのが、僕の顔だったという。
「城の外に持ち出したか、処分してしまったんじゃないのか?」
「いや、それは考えられない。あの手紙はすぐに取り出せないと意味がないんだ。それが頭にあるおかげで、大臣の要求を色々のまざるを得ない」
そうか、その手紙にはポルトに都合の悪い事が書いてあって、それを持ってるかもしれないというだけで、何も言わずにポルトを牽制する事ができるという訳か。
「じゃ、その大臣が身に着けてるんじゃないか?」
「ああ、それは無い。理由をつけて身体検査をした」
おいおい、それって理由をつけても手紙を探してますってバレバレだろう。
まあ、困ってるみたいだし、やるだけやってみるか。
「じゃ、準備するから待っててくれ、報酬ははずんでもらうぞ」
「ああ、希望に添える額出すよ」
ここに来て初めて、ポルトの顔が和らいだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マイとアンに話をして僕1人でポルトと一緒に王都の城に向かい、今はその大臣の執務室にいる。大臣は会議中で僕達の捜索が終わるまでポルトが足止めするそうだ。
綺麗ではない紙の貼り紙がしてある扉を開けて中に入る。部屋の中は殺風景で机に椅子、本棚とスケジュール管理のボードがあるだけだ。机の上には書類が山積みされている。ポルト達が部屋の中は隅々まで捜索したそうなので、僕は辺りを見渡す。
これだ見つけた!
入り口の扉の所に鋲で貼ってある、『用が無い者立ち入り禁止』と走り書きしてある薄汚れた紙を剥がす。その裏には丁寧な字で書いた熱烈な求愛の文が……
何かの本で、物を隠すときは一番目が触れる所に隠したら見つかりにくいって読んだ事がある。木を隠すなら森の中、まさか、探してる手紙がボロボロになって入り口に貼ってあるとは誰も気付かないだろう。
その大臣というのは、ポルトの女癖の悪さを牽制するためにこういう事をしたのだろう。
僕は、ポルトの私室に行って手紙を渡した。
「ポルト、お前王様なんだから、ほどほどにしろよ」
「ああ、ありがとうなザップ」
ポルトはバツが悪そうに手紙をしまった。
僕は豪華な食事を振る舞って貰い、そこそこの報酬を貰って城を後にした。
E.A.ポーへのオマージュです。