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 久し振りの荷物持ち 8


「くそがっ!」


 デュパンが草むらから駆け出し剣を抜く。


 馬鹿がっ! 何してやがる! 駆け出しのくせに!


 隠れとけばやり過ごせたかもしれないのに……


 ワイバーンはデュパンの事は気にせず飛び立とうとしている。


「ファイヤーボルト!」


 黒エルフのレリーフが立ち上がり駆け出して、その手から炎の矢が放たれる。ワイバーンの足に当たり、その足から荷馬車が離れる。こいつも何やってるんだ。わざわざ危険を冒して何になるんだ。


 僕はすぐには動き出せなかった。お酒のお陰で気分が悪かったのと、まだ、馬車酔い状態でフラフラだったからだ。それに、ワイバーンの事は、もう、しのいだと思って安心しきっていた。


「ギャギャーッ」


 ワイバーンは舞い上がると、レリーフに急降下しその体を弾き飛ばす。鮮血が舞い散る。そのレリーフの所に隠れていたジニーが飛び出し走り寄る。こいつも頭より体が先に動く馬鹿なのか? 隠れとけば良かったのに。

 ワイバーンの口が大きく開くのが見え、そこから巨大な火球が吐き出される。ジニーとレリーフはその火球に呑み込まれる。やばい、かなり強力なやつだ。僕は走り出しながら収納から大量に水を出してその火を消し、ジニーとレリーフにエリクサーを惜しみなくぶっかける。大丈夫だったらいいが。

 ワイバーンの方を見ると、商人を庇うように立ったデュパンと対峙している。どうも商人は気を失ってるみたいだ。ワイバーンはデュパンの剣の間合いの外でホバリングしている。


「死ねトカゲ野郎」


 キンッ!


 ワイバーンの後ろに回り込んだパムが何かを投擲したみたいだ。ここにも馬鹿が。揃いも揃って馬鹿ばっかだ。ワイバーンはパムの方を向くと口から小さな火球を吐く。パムは素早くかわすが、その足に命中しうずくまる。致命傷ではなさそうだ。後回しだ。

 ここからワイバーンをぶった切ってやろうにもデュパンと近すぎる。巻き込んでしまいそうだ。


「逃げろデュパン!」


「おっさんを守る。薬を届けて貰わないと!」


 デュパンは震えながらも商人の前に立ち塞がる。こいつも馬鹿だ大馬鹿だ。けど、ワイバーンは何故か火を吐かない。クールタイムなのか? 品切れなのか?

 ワイバーンは上昇するとデュパン目がけて急降下する。デュパンは剣を振り下ろすが軽く弾かれワイバーンに頭からがっぷりと噛みつかれる。僕はその場に向かっているが間に合わなかった。頼む、生きていてくれ!

 幸か不幸か、ワイバーンはデュパンに噛みついているお陰でハンマーの間合いに入った。


 ドゴンッ!


 僕のハンマーがワイバーンを背から2つにへし折る。そしてその顎を無理矢理こじ開けてデュパンを引きずり出す。よかった。運がいい奴だ。丸呑みされて背中と腹部に牙が刺さった形でまだ息がある。普通だったら致命傷だけど、僕にはエリクサーがある。こんな馬鹿野郎をこんな所で死なせてたまるか。収納からエリクサーを出してデュパンを癒す。そのあとパムの所に駆け寄りエリクサーをかけてやる。


 気を失っていた全員1カ所に集めて叩き起こして、起こった事を説明した。ワイバーンは幸運が重なってデュパン達が討伐した事にして僕の事は黙っているように口止めした。ザパンはか弱い荷物持ちなのだ。

 当然、みんなには気持ち悪いくらい感謝された。

 しばらくして到着した街の警備兵にワイバーンを引き渡し、逃げた馬も戻って来たので何事も無かったかのように先に進んだ。後でデュパンたちには討伐の報酬が渡されるだろう。そして街に戻り積荷を降ろし、ギルドに戻って報酬の銀貨10枚を受け取った。




「デュパン、お前、なんで勝てもしない戦いをしようとしたんだ?」


 ギルドの円卓で僕達はエールを飲んでいる。当然1杯だけだ。


「薬をとられたくなかった」


「薬はなんとかなったかもしれないだろ、見ず知らずの子供のために命を賭けるなんて大馬鹿だ」


「けど……また同じ状況になったら…私は同じ事をすると……思う」


 レリーフはたどたどしく確認するかのように話す。その頭はほぼ丸刈りだ。ワイバーンの火球をうけた時に咄嗟にジニーを庇っていた。


「わたしも、目の前に死にかけた人がいたら助ける」


 ジニーの髪もボサボサだ。熱で髪の毛に変な癖がついている。


「おいらも、何があってもデュパンを助ける」


 パムのズボンは右だけ焼けて半ズボンになっている。


「俺は、たくさんの冒険者を見てきたが、お前らのような馬鹿で長生きした奴はいなかった。命を大事にしろよ、じゃ生きてたらまた会おう」


 僕は立ち上がり手を振り、ギルドを後にした。


 自分の事より他人の事を大事にする冒険者は長生きしない。名の売れた冒険者は生き汚い奴ばっかりだ。けど、僕はそんな馬鹿な奴らが大好きだ。そんな奴らに死んで欲しくはない!


「もしもし、アンジュか、とびっきりに鍛えて欲しい冒険者のパーティーがいる。王都を拠点にしてる奴らで、自分の事より他人を大事にする馬鹿ばっかだ。リーダーはデュパンって名前だ」


 僕はギルドの入口で少女冒険者のリーダーアンジュと通話している。


「はい、ザップ兄様と一緒にいた人達っすね。実はちょうど王都にいるんすよ。了解しました。すぐに拉致して鍛えるっすね」


 アンジュの声はやたら楽しそうだった。デュパンたちには地獄の日々が待ってる事だろう。


 冥福を祈る。


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