久し振りの荷物持ち 7
町を出ようとした所で、衛兵に止められる。
「どうも王都に向かう道にワイバーンが出たみたいだ。まだ見たというのは一組の隊商だけなので見間違えかも知れない。なんとも言えんが詳細が解るまでこの町にいた方がいいんじゃないか?」
ワイバーン? ワイバーンって言えば、妖精ミネアの十八番の幻術だけど、まさかな……
「どうします? バゴットさん、私たちはワイバーンに遭遇したら何も出来ないですよ」
デュパンが依頼人の商人に話かける。
「ううん、そうしたいのはやまやまなんだが、この積荷の中にはここら辺でしか採れない薬草があって、それはなんとかって言う赤子が熱を出す病気の特効薬なんだ。王都の在庫が無くなりそうで、これを早く運ばないと薬の値段が跳ね上がり、貧しい家の赤子の命にかかわるんだよ。もしワイバーンがいたら積荷をほっぽって逃げて貰っていいから護衛を頼めないか」
商人はデュパンに頭を下げる。
「バゴットさん、頭を上げて下さい。行きましょう。おい、お前達いいよな」
皆首を縦に振る。気付いていたけど、いい奴らだな。
それにしても、もしワイバーンがミネアの幻術だったら、お仕置きが必要だな。人様に迷惑かけるものではないよ。
ワイバーンが出るかも知れないので少しでも移動時間を減らす事にする。僕とジニーは御者台、他の三人は荷台に掴まって、馬に過負荷を与えない程度のスピードで進んでいく。
行きとは違い誰にも会わない。旅人を見かける事もないので、もしかしたらワイバーンの目撃情報でこの街道を使っている者はいないのかも知れない。ガタガタ揺れるので、昨日のお酒もあって気分がよろしくない。隣にいる商人が何か話しかけてくるが、生返事して何を言われても頭に入ってこない。うう、気分悪い……
「ワイバーンだ! 馬車を止めろ!」
デュパンが叫び、馬車を止めて僕達は地上に降りる。長いこと揺れる馬車に乗ってたので地面がぐらぐらする。道から離れ、背丈の高い草むらに僕達は身を隠す。遠くに見えた黒い点がみるみる大きくなり、トカゲに翼が生えたような生き物が目視出来る。ワイバーンだ。本当に居やがった。
ワイバーンは荷馬車の上を何度か旋回する。馬は恐慌状態になり、馬車とは外していたので逃げ去っていく。ワイバーンはそれには目もくれず、片方の荷馬車に降り立ちそれを足で掴もうとする。
「……薬の入った方だ……」
商人が小声で漏らす。冒険者達は震えを止めようと必死になっている。積荷は諦めるしかないだろう。王都にもどったら、その薬が必要な貧しい赤子は薬が来るまで、僕の収納の中のエリクサーでなんとかするしかないか……
僕達は、息を殺してワイバーンが荷馬車を掴むのを見ている。奴は荷台の頑丈そうな所を上手く掴み、少しづつ持ち上げていく。
勝てない戦いはしない。デュパンたちは立派な冒険者になる事だろう。今回の依頼は失敗でお金は貰えないかもしれないが、パムが稼いだから当面は生活出来るはずだ。