第三十七話 荷物持ち準備する
「お前、名前は何て言うんだ?」
僕は頭に角を生やした少女に問いかける。そう言えば、まだ聞いてなかったな。
「アイローンボー」
「え、もう一回言って?」
マイが聞き返す。
「アイローンボー!」
何て覚えにくくて、言いにくい名前だ。
「解ったアボだな」
「アイちゃんね」
僕とマイはお互い見つめ合う。駄目だ。つい目をそらしてしまう。
「アイちゃんね!」
「はい……」
僕は負けた。反則だ。女の子の視線は強すぎる……
マイとアイ、似てるな。間違えないようにしないと、少し危険な香りがする。
「アイ、お前一日どれ位食べるんだ?」
今の僕の一番の懸案材料を問いかける。これ如何で、これからの計画が変わってくる。
「こら、ザップー! 女の子に失礼でしょ!」
なんか、マイの態度が変わってきた気がする。なんか絡みが彼女みたいだ。人生と彼女いない歴が一緒の僕には正直荷が重い……荷物持ちなのに……
「マイ、そんなつもりは無い。ただ食料の備蓄を考えないといけないからな」
「ご主人様、この格好の時は人並みにしか食べないですよ」
良かった、女の子の人並みなので、大したことないだろう。僕は胸をなで下ろす。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
嘘だった。完全に嘘だった。
「いやー、美味しいですぅー、これがあのくそ不味いヘルハウンドとは思えないですぅー! あ、いいんですか、まだ貰って、すみません、このご恩働いて返しますから。いや、絶対マイ姉様とっても素晴らしいお嫁さんになれますよ、いや、ほんとに!」
よく喋るドラゴンだな。
「え、そう……そうかなー……」
マイは肉を焼きながら僕の方を見て、耳をいじりながらもじもじしてる。何なんだ?
「アイちゃん、遠慮しないでどんどん食べてね!」
マイはアイの皿にどっさり焼いた肉を置いた。
肉焼き用の斧にアイが炎を吐く。その上で、マイがステーキを焼く。待ってる間にとめどなくアイが喋る。焼けたステーキを瞬く間にアイが食べる。最初に戻る。
終わる事無くその一連の動作が繰り返されている。
なにが食べる量が人並みだ! 少なく見積もっても十人分は軽く食べてるぞ。
しかも、何故かマイは上機嫌でどんどん肉を焼いている。
今、僕たちはエリクサーの泉の部屋で食事を取っている。
僕とマイは食べ終わり、今のような状況だ。僕はエリクサーを汲み続けている。人1人を全快させられる量を1として、千は汲んで行く予定だ。
「ご主人様、安心して下さい。今日は特別です。意識が無い間、食事はどうしてたのか解りませんが、とてもお腹が空いてたのです」
やっと満足したのかアイが近づいてくる。妊婦のような体型になってる。明らかに過剰摂取なのでは?
「ザップー、待ってる間、アイちゃんと解体するからヘルハウンド出して」
マイは耳がぴくぴくしてる。何故か上機嫌みたいだ。
「わかった。出来るだけ持ち運びしやすくしろよ」
僕はヘルハウンドを出す。そろそろ別れが近いから、こいつらには出来る限り沢山食事を持たせないとな。
マイとアイは肉を解体調理して、すぐ食べられる状態のを多数作った。あと、マイがもってる水筒と取っておいたポーションの容器にエリクサーを満たした。エリクサーも十分汲んだし準備完了だ。
そして僕たちはエリクサーの泉を後にした。