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 久し振りの荷物持ち 5


 調子に乗りすぎた。いつも後悔する事になるが、後悔した時にはもう遅い。

 ぐいっと飲んだ冷たいエールは最高だった。これが僕の最後の記憶だ。これからの話はあとでみんなから聞いたのをまとめたものだ。誇張もあるかもしれないが、逆に遠慮もあるかもしれない。けど、その伝聞が僕に知り得る全てでしかない。


「思ったより、観客が集まらないな?」


 僕は黒エルフのレリーフの頭をガシッと掴んだ。あと少しで頭が爆ぜそうだったとレリーフは語っていた。


「ザパンさん、痛いですよ痛いって、いつもこんなものですよ、パムの唄は上手ですけど、吟遊詩人なんてそんなに珍しいものじゃないですから」


「そうか、じゃお前踊れ」


 レリーフの頭を解放した僕は獰猛な猛獣のような目で彼を見据えた。命の危険を感じたとレリーフは言っていた。まったく大袈裟だな。


「ザ、ザパンさん、わたくしのような枯れ枝のような者が踊っても誰も見向きもしませんよ、やはりザパンさんのようなお綺麗な方が踊るべきかとわたくしめは進言いたします」


 レリーフは僕の顔色をうかがいながら、慎重に言葉を選んだそうだ。


「そうか、そりゃそうだな、しょうがない俺が一肌脱ぐか」


「ダメですーっ、止めて下さいザパンさん!」


 服を脱ごうとする僕にジニーは抱きついて必死に止めたそうだ。


「冗談だよ、ジニー、お前可愛いやつだな、そうだお前が脱げ」


「キャー、止めて下さいーっ。人が人が見てます!」


 ジニーは必死に抵抗し、なんとか人としての尊厳を守る事が出来たそうだ。けど、この頃くらいから、酔っぱらった僕の大声とジニーの叫びを聞いて野次馬がぞくぞく集まってきたそうだ。


「おいおい、ザパンさん、頼むから大人しくしてくれよ、俺達店から叩き出されちまうぞ」


 デュパンが僕をたしなめると、僕はこの世の終わりのような悲しそうな顔をして頭を下げたという。


「ごめんなさい。調子こいてました」


 けど、それも一瞬で僕は辺りをキョロキョロ見渡した。


「あれ、人多くね? よし、やるか! おいパムパム、気合いいれろ、あとテンポはもっとあげろ」


「はいっ!」


 僕は立ち上がった。そしてその手にはいつの間にか巨大なハンマーが握られていた。


「俺の踊りを見ろーっ! ザーップ降臨!」


 僕はそう叫ぶとハンマーで天を突いた。パムは必死にリュートをかき鳴らし、その歌声に合わせて僕が舞う。猛る場面ではハンマーの空を切る音が辺りを震わせ、愛を囁くたおやかな場面ではまるで水が流れるかのように柔らしく、それを見ている者は武神と女神が混在したかのようなその舞から目が離せなくなったという。


 確かにそこには1人の英雄が降臨していた。


 ザップが暗黒竜を封印し、そこから魔道都市の姫様を助けた所で、英雄譚サーガは終わりを告げるが、観客からは万雷の拍手と共に終わらないアンコールの声が。

 最強の荷物持ちが最強の勇者と戦い勝利して愛を勝ち取る前半のクライマックスのシーンをパムはもう一度演奏し、僕は最高に情熱的な舞でそれに応えたそうだ。

 そして熱狂の路上公演は幕を閉じた。終わるなり僕は椅子に座り船を漕ぎ始めた。

 硬貨入れからはお金が溢れて地面に小山を作り、それには小金貨さえも混じっていた。

 今回の冒険の依頼料金より遙かに稼いだそうだ。みんなは酒場で1番美味しいものを頼んで食してそこを後にし、久し振りの贅沢、宿に宿泊する事にした。踊って気が済んだのか僕はとても大人しかったそうだ。男女別れて部屋をとってそれぞれの部屋に向かった。


 

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