久し振りの荷物持ち 4
「さあさ、今から始まるよ、今や王都で大人気、当代きっての大英雄、最強の荷物持ちモンキーマンザップの勲しはじまるよ、楽しんでくれた方はほんの心づけをひょいっとこちらの容器に放り込んでくれ」
子供族の吟遊詩人のパムが楽器を片手に金属で出来た容器を掲げる。その中には銅貨数枚、銀貨数枚、小金貨一枚が入っていて「ジャラッ」と音がする。当然パムにおひねりを入れた者はまだいるべくもなく、容器のお金はパムのお金、要は呼び水のようなものだ。金属の容器にしているのがまた心憎い。これで誰かが硬貨を放ったら、音がするから他の者にもそれが伝わり、ちょっと入れとこか的な空気を作り安いだろう。
依頼主を所定の位置まで送り荷下ろしを手伝ったあと、町で1番大きな通りに面している酒場に向かった。冒険者達はただ歩いていただけの筈なのに全員くたくたで、荷下ろしはほとんど僕がしたようなものだ。
「ただ変な奴に絡まれただけなのになんでこんなに疲れたんだろう。まるで、一日中気を張って戦い続けたみたいだ」
これはデュパンの言だが、まあ、それもそうだろう。殺気を放ってはいなかったが、彼らの前に現れた者達は鼻歌交じりに素手でドラゴンを鏖殺出来るような猛者達、その強さを嗅ぎ取れただけデュパンは見所がある。僕は何度も格上の敵に突っ込んで死にかけてばっかだったからな。
『冒険のコツは冒険しないことだ』そう言ったのは、伝説の冒険者にして作家、エルキューレ・ナザレだが、言い得て妙だ。彼は冒険者として成功してしかも天寿を全うした。その手記を紐解くと、緻密な準備と臆病と言える程の慎重さ、あと勝てる戦いしかしないと言う事を徹底していた。
要は戦闘においては彼我の戦力をしっかり分析し勝てなさそうな時は逃げる。これはとても大切だ。冒険で戦いに負けた先にあるものは死なのだから。
冒険者、特に原始の迷宮がそばにある王都では死亡する冒険者が多い。なんだかんだで『ゴールデン・ウィンド』に所属していたおかげで僕は長生き出来ていたのかもしれない。いや、それはおかしいな。確かに僕はあいつらに殺されかけたのだから。
僕達はテラス席でリッチに食事をとっている。パムはご飯を一気にかきこみエールを1杯あおると、楽器とおひねり箱をもって店主に話をつけ、店の入口で英雄譚を唄い始めた。澄んだリュートの音と、パムの天使のような高い声は心地よく、僕は2杯目のエールを頼んで口にする。3日間のマイから貰った小遣いは銀貨3枚だけどまだ余裕はある。
パムが唄っているのは誇張された僕の事で少し恥ずかしい。いや、本当はかなり恥ずかしい。なんか唄の中のザップはやたら女の子に格好いい台詞を吐くし、やたらもてる。しかもなんか所々やけにリアルだ。
「ザパンさん、顔真っ赤ですよ、もしかしてお酒苦手なんですか?」
神官のジニーが僕のおでこにおでこをコツンとあてた。これが僕の恥ずかしさを爆発させて、手にしてたエールを一気に飲み干してしまった……