収納と魔法
「それで、なんで強くなっても強くなっても、俺だけ魔力が強くならないんだ?」
今日は導師ジブル先生の魔法講座。今日の講義が終わり質疑応答タイムだ。
リビングに出した黒板の前に教卓を置いてジブルはそこに立っている。サイズが合わないので台座に立ってるのはご愛嬌だ。見た目も合い重なり、正直可愛らしい。白いボタンシャツにタイトなスカート、黒縁の眼鏡。教鞭をふるう時はいつもこの格好だと言う。
ジブルはホップという放浪の小人族で、成人しても人間の子供にしか見えない。もっとも、そのプロポーションは成人のものだが。
生徒は僕とマイとドラゴンの化身アンと猫のモフちゃんだ。ソファはしまって、代わりに机と椅子を出して僕達は座っている。何事も形が大事だと言うジブルの考えを尊重した形だ。モフちゃんも可愛らしく椅子の上に丸まっているが、講座を受けてるというより聞き流してる感じだ。
「それでは、まずは魔法って事象についておさらいするわね」
ジブルは眼鏡を指でくいっと上げると、黒板に白墨で『魔法』という文字を書き、教鞭で指し示す。背伸びしながら頑張ってる姿が微笑ましい。
「一般的な魔法というのは、精神的なエネルギー等を呪文や印などにより違うものに形を変えて奇跡を起こすものです。いいですね?」
僕達は頷く。
「何度も何度も魔法を使ったり、魔物を倒して強くなったりしたら、精神的なエネルギー俗に言うMPは増えて、魔法を使う時の威力などの事を言う魔力は少しづつでも上がって行くものです」
「じゃあ、俺も……」
「普通はですね」
僕の言葉にジブルが被せてくる。
「昔、剣王と呼ばれる者がいました。その剣は大軍をなぎ倒し、竜ですら一撃で両断したそうです」
「あ、それってご主人様みたいですね」
アンが手を上げて発言する。
「そうね、ゴブリンの軍団をなぎ払って、アンちゃんの尻尾を両断したんでしょ、ザップも剣王って名乗っていいんじゃない?」
マイも手を上げてから発言する。ん、それってこの講義というスタイルのルールなのか?
それに僕は『荷物持ち』であって、そんなこっぱずかしいネーミングの『剣王』などとは死んでも呼ばれたくない。モンキーマンの方がまだましだ。
僕もルールにならい恐る恐る手を上げて発言する。
「ジブル、それで僕の魔法の話じゃなかったのか?」
「はい、そうです。剣王は剣に関する事に全ての能力を費やしていたので、修行してもほんの少ししか魔法は使えるようにならなかったそうです。ですから、これは憶測ですが、ザップさんは魔法とかに関する物理ではなく精神領域がほとんど収納のスキルで占められてるのではないでしょうか?」
「あ、そうよね、魔法の収納っていうくらいだから、そこで魔力使ってそうよね。それに、ザップが強くなるにしたがってどんどん収納が便利になっていってるし」
ジブルとマイが言った事を反芻し、しっかり考えてみる。
「という事は、俺の収納のスキルが魔力を使うから魔法が強くならないって事か?じゃあ収納のスキルを封じたり一時停止できたら強力な魔法を使えるかもしれないって事か?」
「それは止めた方がいいでしょう。もしそうしたとしても、ザップさんが強力な魔法を使えるようになる為にはとてつもない努力と時間が必要になると思いますよ。それよりはその反則に近い収納スキルを使いこなす方を考えた方がいいと思います」
ジブルが言う事は道理だけど、なんか釈然としない。
「ザップは、ザップ、『最強の荷物持ち』。それでいいじゃない」
マイが僕に微笑んでくる。なんか丸め込まれたみたいだけど、ま、いっか。