冷やし担々麺始めました
「ザップ、見てみてーっ!」
リビングでゴロゴロしながら読書などを愉しんでいる僕の所に、マイが1枚の紙切れを持ってきた。
『冷やし担々麺始めました』
その紙にはそう書いてあった。
何の事かだいたいの見当はつくが、マイに一応聞いてみる。
「それ、どうしたんだ?」
「いつもの担々麺屋さんから送られてきたの」
僕の収納のオプションのポータルの1つは担々麺屋さんに繋がってるのだが、最近暑くなってきたので食べた記憶がない。
寒い時はかなりお世話になったけど、今の季節は担々麺を食べたら、その熱さと辛さで汗だくになる事だろう。
冷やし担々麺、なんて甘美な響きだろうか。暑い中だったら冷たい担々麺でも辛さでやられてしまうけど、今ならば。
「ご主人様、それは食べざるを得ないでしょう」
いつの間にか、部屋の中央にあったでっかい氷から体を離したドラゴンの化身のアンが紙をのぞき込んでいる。
今リビングの中央にはタライに乗った大きな氷が屹立している。先日、魔道都市アウフから連行してきた、子供族の合法ロリ魔法使いのジブルが魔法で出したものだ。彼女は毎朝仕事に行く前に氷を出すのが日課になっている。
今、彼女は魔道都市に仕事で行っている。今日の仕事は午前だけだと言ってたのでもうじき帰って来るだろう。
アンを見ると、体はびしょ濡れで、服が体に張り付いて下着が透けている。なんと言うか、ドラゴンとは解っているのだけど、見た目は麗しい少女なので少しは自重して欲しい。僕はアンから目を逸らす。
「あー、ザップ、今、アンちゃんの体見てたでしょー」
マイがいたずらっぽい顔して僕をからかい始める。
「確かに見てたニャー、ザップはエッチだニャー」
モフモフ猫のモフちゃんも加わってくる。
うう、僕だって男だから、つい目が行ってしまう。それにそんな時に限っていつもは見てないのにめざとく突っ込まれる。
最近は色々本を読んで少しは賢くなったはずだ。戦いだけではなく、会話でもマウントを取ってやる。
最近、マイもアンも無防備な姿を見せつけて、それに戸惑ってる僕を見てからかって楽しむ傾向にある。
いつまでもやられっぱなしだと思うなよ!
さぁ逆襲の時間だ!
僕は大きく息を吸い込み口を開く。
「ああ、見てたさ、アンの体は綺麗だからな。服が張り付いて体型がよく見えるが、そこまでするなら、むしろ下着だけか裸でいて欲しいものだな。そしたらじっくり鑑賞してやる!」
僕は立ち上がり腕を組みアンを見下ろす。
「え、ご主人様?キャーッ!」
アンは真っ赤になって胸元を押さえると部屋から走り去った。まずは1人倒した。
「しょうがないだろ、男はそういう生き物だ」
僕はマイを見てゆっくりと話す。
「え、もしかしてザップ酔っぱらってるの?」
マイは少し後ずさる。
「そうとも言えるな。男は何時でも女性の魅力に酔っぱらっている。そうだ、そういう事ばかり考えて、そういう事ばかりしてきたから、子供が生まれ繁栄してきたんだ」
僕はマイの目を見る。マイは怯えた子鹿のような目をしている。勝ったな。これで少しは自重してくれるしちょっかいも減るだろう。僕の心に安寧がもたらされる事だろう。
「…………なの……」
「え?」
マイが俯いてぼそりと呟く。
「…ザップが他の女の子見てヘラヘラしてるのが嫌なの…」
キッとマイが少し潤んだ目で僕を見つめてくる。
え、何の事?
何言ってるのか解らない。
けど、つい、マイから目を逸らしてしまう。あんな目で見るのは反則だ。やっぱりマイには敵わない。
僕はマイの目を見る。なんて言えばいいのか解らない。本の中には答えはなかったな……
マイは僕を見ている。
僕はマイを見ている。
何を言えばいいのか解らない。
僕は自分の思っている事を素直に口にする事にした。
「腹減ったし、冷やし担々麺みんなで食べようか?」
マイはみるみる赤くなると、ぷるぷる震えて僕に一瞥すると部屋から駆け出してった。
「ギャッ!」
足下に痛みがはしり、みるとモフちゃんが僕に爪をたてていた。
「ザップ。お前が悪い。むしろ極悪だな、はやくマイさん追っ掛けろ!」
「あ、ああ……」
僕はマイを追っかけて捕まえたけど、それからしばらくはマイは絶不機嫌だった。
みんなで冷やし担々麺を食べてる間も終始無言だった。女の子って解らないな……