ドラゴンスレイ
誤字脱字報告ありがとうございます。とても助かってます。
「くたばれーっ!」
僕は収納から大剣を出して上段に構える。
絶剣山殺し。
剣の先端は遙か上空で雲に刺さっているかのように見える。まあ、実際はそこまで長くはないのだが。
僕の目の前には凶悪そうな顔のドラゴン。けど、その目は澄んでいて、怯えた小動物みたいだ。家畜。そういう言葉が頭をよぎる。
目の前のドラゴンの姿がぶれたと思うと、みるみる小さくなって1人の少女が現れる。一瞬裸だったけど緑の服がその体を覆う。
「ちょっと、ちょっと、ご主人様、今、確かに『くたばれーっ』って言ってましたよね!」
ドラゴンだった少女アンは僕に駆け寄って来ると、涙に潤んだ目で僕を見る。
「つい、気分でな。冗談だよ」
「やっぱり嫌です。絶対痛いです。どっかで他のドラゴン見つけましょう」
「おいおい、何言ってやがる。病気の子供がドラゴンを食べたがってるんだろ。観念しろ」
「しばらく旅に出ます。探さないで下さい!」
アンはそう言うと僕に背を向け走り出した。こうなると思っていたので保険は準備している。
「ミネア、やってくれ」
「あいよ!」
僕の頭の上に座っていた、手のひらサイズの蝶のような羽根が生えた妖精が高速で飛び出す。
「魔法なき世界」
弾丸のように飛び出した妖精から放たれた光がアンに突き刺さる。妖精はそのまま飛び抜けて、光がアンを中心に弾ける。
『魔法なき世界』
妖精ミネアの必殺魔法、光に包まれたエリアの全ての魔法効果を消し去り、しかもしばらく魔法系のスキルや魔法を封じるという、脳筋ドッグファイト御用達の魔法だ。
不便なのは妖精ミネアはこの魔法の範囲内に入ったら自分自身が魔法に由来する生き物なので多分消滅するという自爆魔法な所だ。こいつはなんでそんな魔法を手に入れたんだろう?まあ、自爆はロマンだけど。
光が晴れると、そこには僕に背を向けて走り去る巨大なドラゴン。
僕は剣を掲げて走り出す。
ドラゴンのアンは走るのは速いが、瞬間的には僕の方が足は速い。即座に追いつきその横を併走する。後ろから剣を振り下ろしたら、手元が狂って両断してしまうかも知れない。
一瞬ドラゴンと目が合う。目を逸らされドラゴンは更に加速する。僕は併走しながらタイミングを計る。
「ここだあっ!」
僕は大地を踏みしめ、剣を振り下ろす。
ザシュッ!
少しウェットな音がして見事に根元からドラゴンの尻尾を両断する。
ミッションコンプリートだ。
ズザザザザザザーッ
尻尾を失いバランスを崩したドラゴンのアンはつんのめって転倒する。収納にドラゴンの尻尾をしまいアンに駆け寄り収納からエリクサーを出してかけてやる。みるみるうちに尻尾も再生する。なんか見てて気持ち悪いな。
アンは少女スタイルに戻り僕達はもと来た方に戻る。アンは顔に手をあてて泣きじゃくっている。なんか僕が悪い事したみたいだな。今回のドラゴン肉が欲しいという依頼はアンが受けて来たもので、自分の尻尾を切ろうと言ったのはアンなのに……
「ザップー、アンちゃーん、何してるのー?」
マイが駆け寄って来る。反対されそうだったので連れてこなかったのだ。
「どうしたの、アンちゃん?」
マイが心配そうに、アンの顔をのぞき込む。
「お尻が、お尻が焼けるように痛いです。ご主人様のお陰で……」
泣きながらアンは僕を指差す。
「お尻が痛い?ザップのせいで?」
いかん、マイの顔が無表情だ。なんか勘違いされてる!
僕は必死に弁明したが、アンが紛らわしい事を言いまくるので、誤解が解けるのにはかなりの時間を要した。