忘れられた墓所 後編
部屋の中には何もなく、ただ奥の方に4人の人物が立っている。杖を振り上げて口を開けた端正な顔立ちの魔法使いの女性、盾に身を隠した男性、錫杖を手に身構えている少し小柄な女性。あと、こっちに向かって土下座している大柄な男性。盛大に土下座しているのは多分ザナドゥだろう。あいつは何してるんだ?
「何らかの魔法にやられたんだと思います」
シャリーは呪文を唱え始める。
「シャリーちゃん、待って、彼らを回復する前にバフ系の魔法の準備しないと」
猫のモフちゃんが話ながら僕達の前に出る。
「来るわ!レジストマジック!」
モフちゃんから出た光が僕達に吸いこまれる。
目の前の床に光輝く魔法陣が現れる。六芒星をベースとしてびっしりと輝く文字が描かれている。
「召喚魔法陣!シャリーちゃん、解除!」
ラパンが叫ぶ。
「やってるわ!無理っ!大勢の術者で祭った儀式魔法陣、あたし1人じゃ打ちけせない!」
シャリーの手から光の帯が放たれるが魔法陣の前で霧散する。
『墓所にあだなす者よ、その歩み、とこしえに止めるがよい』
地の底から聞こえるような低い声が心に直接響き渡る。
「ダイレクトボイス。言語を直接心に響かせるロストマジックよ!」
ラパンが解説してくれる。伊達に魔道都市のプリンセスじゃないな。もともとは引きこもりの魔道オタクだって導師ジブルが言ってたしな。
魔法陣の中央に黒いしみのようなものが現れ、水の中にインクを落としたかのように捻れながら広がると徐々にそれが二足歩行の生き物を形作る。
毛の生えた牛か山羊のような足に屈強な男性の上半身、山羊の頭に捻れた節くれだった角。本でしか読んだ事がないが、デフォルトな悪魔だ。とりあえず、挨拶かましてやるか。
「どっせーい!」
僕は悪魔に一直線に駆け寄り、上段にハンマーを振り上げ、加速と体重を乗っけた一撃をその脳天にプレゼントする。
「待って!」
シャリーの声が聞こえるが、僕のハンマーは悪魔の頭に突き刺さる。
ボムッ!
確かな手ごたえ、けどおかしい、思いっきり地面を打ち据えたかのように、悪魔の頭に少しのめり込みハンマーは止まる。嘘だろ、今の一撃ならドラゴンでも吹っ飛ぶぞ!
「ザップさん、こいつは中級悪魔、しかもアストラル寄りで物理攻撃99%カットの能力持ちです。殴り倒すのは至難の業ですよ!」
さすが元大神官、宿敵である悪魔に熟知してるのか。けど99%カット?僕と相性悪過ぎだろ。
「カース・オブ・クロノス……」
悪魔が僕を指差し、その指から出た灰色の何かが僕の前で消失する。
「ザップさん、失われた時間魔法です。モフちゃんの魔法のお陰でレジスト出来ましたけど、多分くらったら動けなくなります」
シャリーが声を張る。
「なんだと!」
僕は悪魔から距離を取る。『ダンスマカブル』の4人はこの魔法の餌食になったのか!
「ホーリーウェポン!」
ゴフッ!
マイの声がして悪魔が吹っ飛ばされる。悪魔の首が変な方向に曲がっている。うん、『首へし折りのマイ』だな。けど、云いにくいから定着しなさそうだ。
ゴキュ!
悪魔は首を自分で戻しながら立ち上がる。まじか、あんまり効いてないな。
「レジストマジック」
モフちゃんから魔法が届く。
「ホーリークロウ!」
僕はハンマーを床に置き、全ての指に精気を纏って悪魔に飛びかかる。ダメージが少ないなら手数で勝負だ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もう、飽きてきたニャー」
モフちゃんのあくびしたような声がする。
「そうね、つまんないわ」
妖精の声もする。
モフちゃんかシャリーか妖精ミネアに魔法防御をかけてもらって、悪魔と戦い、魔法がはげたら離脱してまたかけてもらう。僕、マイ、ラパンでエンドレスに悪魔を攻撃し続けている。
悪魔は高い自己治癒能力をもっているみたいだが、3人の連打で徐々に追い込んでいる。奴の戦闘能力は高くないのだが、固い。めちゃくちゃ固い。
魔法にも高い耐性があるそうで、1番効いてるのが、聖属性の物理攻撃。今僕達がやってるやつだ。
いつかは確実に倒せるけど、まだるっこしい。強力な属性武器が欲しいなぁ……
「飽きた。お腹空いた。我慢出来ない」
何かモフちゃんがブーブー言ってる。しょうがないじゃないか。
「どっちがいく?」
ん、ミネア何する気だ?
「俺様がいくぜ!」
ん、モフちゃん?
「下がって!」
マイとラパンの姿が消えた?
え、何だ?
僕の視界に小柄な毛玉が飛び込んで来る。
「猫の世界!」
モフちゃんの声がする。僕はちょうど悪魔の爪をさばいた所で動けない。いかん、モフちゃん必殺の『世界』の名を冠する魔法。生き物を絶対に猫にする魔法だ!モフちゃんから放たれた光が悪魔と僕を包み込む。
「うにゃーっ!」
光が晴れたあとには、一匹の目つきが悪い黒猫がいた。当然僕も猫だ……
「天誅ーっ!」
猫に近づいシャリーがまるでゴルフというスポーツのスィングみたいに持ってるハンマーで、黒猫を掬い飛ばした。黒猫は吹っ飛ばされて壁にぶつかり染みを作って地面に落ちる。そして、陽炎のようなものをだしながら消え去った。
「悪が栄えた試しなしっ!」
そう言いながらハンマーを天に突き上げたシャリーは、僕の目には悪鬼羅刹にしか見えなかった。猫をフルスィング……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「兄貴ーっ!ありがとうございましたーっ!」
時が止まる呪いの魔法からシャリーによって解放されたザナドゥはまっしぐらに僕に抱きつこうとするのをなんとかかわす。アブねー、兄貴って言って抱きつかないで欲しい。
あとの『マカブル』のメンバーからも礼を言われ、そのあと部屋を捜索した。
部屋にあった隠し扉を見つけたのはザナドゥだった。あいつ戦士兼盗賊だったのか。
通路を通って小部屋に出るとそこは真ん中に石の棺をたたえた墓所だった。有史以来初めての盗掘にあっていない墓。もしかして歴史的な発見なのか?
この場所は史書にも載らず、ここを知っていた者はだれも盗掘しようとしない訳だ。
期待してた金銀財宝は全くなく、そこにあったのはやたらリアルで再現度の高いマッチョな男達の石像群だった。しかもほとんど裸のようなのばかりだ。うちの女の子達は絶句している。
「地獄……」
つい僕の口から呟きが漏れる。
「おお、素晴らしい石像ですね、あ、これ兄貴にそっくりですね。これ拠点に飾ろ」
ザナドゥは石像の大胸筋を撫で撫でしている。
「「ダメっ!」」
マカブルの女性陣のチョップがザナドゥに炸裂した。
ここに埋葬された者からしたら価値のつけられないお宝だったのかもしれないが、僕達からしたらガラクタというかむしろセクハラアイテムだ。
「ザップ、気持ち悪いから早く帰ろ」
マイが僕の袖口をちょいちょいと引く。
「僕も気分悪いですね」
「きも……」
「帰るにゃー」
妖精だけが名残惜しそうにプラプラ飛んでいる。
「お土産にこれ持って帰ろ、なんと、下から見たら全部丸見えです!」
「「「「だめっ!」」」」
僕らはマカブルに別れを告げて墓所をあとにした。
風の噂ではマカブルが運び出した石像はどっかの領主が良い値段で買い取ってくれたらしい。
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