第三十六話 荷物持ち主人になる
「それで、なんで急に人間の姿になったんだ?」
こいつが変身してたお陰で、変な誤解を招いた。正直その訳を知らないと気が収まらない。
「それは……ここから出ようと思ったからです。ドラゴンのままでしたら、通路通れませんので」
まあ、当然だな。
「お前はここの守護者じゃないのか?」
「あ、それは一回倒されたので契約が解けました」
「契約って何?」
マイが僕とドラゴンだった少女の間に体を入れて、口を挟んできた。
「前のご主人様との契約です。倒されるまで、お墓を守るっていう。死にかけたお陰で、意識も戻って契約も解けましたけどね」
意識を奪う契約って、それは呪いと言うのではないだろうか?
「それで、あなた、ここを出てどこに行くの?」
「あては有りませんね、どんだけここに居たかも解りませんし……」
「じゃ、あたしたちと一緒に来ない?」
マイは少女に微笑みかける。
「何言ってんだ!」
止めて欲しい。こいつは多分食費がかさみそうだ。ブレスを貰えるのは魅力的だけど。数えてはいないが、もう十分に蓄えたはずだ。
「え、そうですね、別にする事ないし、いいですよ」
おい、なに勝手に了承してるんだ。
「じゃあ、マイについて行け、俺は一人で行く!」
「んー、ザップ、お肉さばけるの? お料理つくれるの? もしかして固くて臭いお肉が好きなの?」
「うっ!」
マイは僕の前に来て小首を傾げる。それを言われると弱い。せめてここにいる間くらいは美味いものを食べたい。
「……ここにいる間だけだ……」
僕は声を絞り出す。
「やった! ありがとう、ザップ!」
マイが抱きついて来ようとするのを頭を押さえて制する。なぜ、事あるごとに僕に抱きつきたがるのか?
「では、新しいご主人様、しばらくの間よろしくお願いします」
少女は膝をついて、僕に頭を下げる。なんか仰々しいな。
「なんでご主人様なんだ?」
「え、私を倒したではないですか?」
「そういうものなのか?」
「そういうものなのです。すみませんけど、ここを出る前に前の主人様に挨拶してもよろしいですか?」
「挨拶?」
「はい!」
少女は僕らに背を向けて奥に歩き始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、前のご主人様、あなたの事はあまり覚えてないけど行って来ますね」
少女の前には盛り上がった土があり、そこに豪華な剣が刺さっている。多分墓だろう。ドラゴンの前の主人は亡くなってたのか。
広間の奥には小部屋があり、僕らはそこにいる。
「新しいご主人様、私を倒したので、あの剣はあなたのものですよ」
少女は僕に振り返る。なんか強そうだ。けど、剣だしな。
「あれは、お前を一撃で倒せるのか?」
「いい剣ですけど、多分無理だと思います」
「要らないな」
それなら、僕のハンマーの方がいいや、なんかお墓みたいだし、気持ち悪い。
「そうよね、この娘の前の主人の墓標みたいだしね」
マイが何かに納得している。
軽く黙祷し、僕らはその墓所を後にした。