6月の花嫁
「ザップ、結婚式だよ」
マイに言われた方を見る。教会の扉の前に一組の男女がいて、その周りで家族や友人と思われる一団がその2人に花吹雪を撒いている。女性は装飾が多い白いドレス。男性は光沢がある布で出来た格好いいシルエットのスーツを着ている。
2人は教会の入り口まで歩くと女性がその手にもっていた花束を投げる。若い女性がそれにつけても群がってそのうちの1人がそれを上手くキャッチする。そして2人は馬車に乗り込んで、ゆっくりと馬車は進んで行った。
僕達は冒険者ギルド支部に依頼の完了証明書を提出して帰ろうとしてた所だ。ドラゴンの化身アンは先に飯食いに行っている。
別に結婚式には興味ないが、マイが立ち止まったので、何気なく見てた。
「なんか最近よく見るな」
「そりゃ、6月だからよ」
「6月?」
「フフッ、6月に結婚したら特に幸せになれるって言われているのよ」
マイは軽く笑うとくるりと僕に背を向けて歩き始めた。僕もそれに続く。
特に幸せになれる?なんだそれ?初めて聞いたな、そもそも結婚式って貴族しかしないんじゃないのか?けど、昨日も一昨日も見たような。
「最近、王都でウェディングプランナーっていう人達がいて、良心的な金額で結婚式を挙げてくれるのよ、この町ではマリアさんがその依頼も受けてるらしいわ」
マリアさんは、僕達の家の前にある『みみずくの横ばい亭』というレストランの女主人さんだ。世話好きというか、色んな事やってるんだな。
「ザップ、ブーケトスって知ってる?」
マイが振り返る。なんか心なしかいつもより綺麗に見える気がする。マイがドレスを着たらきっと似合うはずだ。いつかはマイもさっきの花嫁さんみたいに綺麗なドレスを着て誰かと結婚して僕のもとから去って行くんだろうか……
マイとは一緒に住んでるし、ご飯も作って貰ってるし、もしかしたら僕の事少しは好きなのかもって思う事もあるけど、実際はどう思ってるんだろうか?なんていうか、それを聞いたら今の関係が壊れるような気がして聞く事が出来ない。
「ザップ、聞いてるの?」
あ、ブーケトスだったよな。知っているけど、今の僕は長文を話せない自信がある。キョドりそうだ。
「ブーケトスって何だ?」
「……あのね、さっきの花嫁さんがした、ブーケを投げる事よ、そのブーケをキャッチしたら、次の花嫁さんになれるんだって」
なんて言えばいいんだろう。もしかして、マイはブーケが欲しかったのか?誰かと結婚したいのか?僕達はしばらく無言で歩く。
『マイも欲しいのか?』
そう言いたいけど、口が動かない。言い出せない。
「じゃ、じゃあ、男がキャッチしても花嫁さんになるのかな?」
どうでも良い事を言ってしまう。やっぱり無理だ。
「そ、それって、花婿さんになるんじゃないの?」
なんか、マイの顔が心なしか赤い気がする。
それからの僕達の会話はアンと合流するまで、なんかよそよそしくぎこちなかった。
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