凋落
「ザップ、働かないとお金が無くなるわ……」
最近のマイにしては珍しく顔色が悪い。
僕はリビングのソファから立ち上がる。
「ザップ、働かないとお金が無くなるにゃー」
マイの足下でホルスタイン柄のもふもふ猫のモフちゃんがマイの言葉をなぞる。
狼狽えた猫耳美少女と猫、見てて飽きないものだけど、言っていた台詞がいただけない。
「何言ってるんだ、ざっくり考えても10年くらいは働かなくてもいいぐらい稼いでいなかったか?」
「昨日まではそうだったわ」
マイは僕に1枚のやたら綺麗な紙切れを差しだす。
「大金貨2000枚、山殺し代?なんだこれ?マイ、どっかの山を1つぶっとばしたのか?」
訳がわからず聞いてみる。僕は山なんかを殺した覚えはない。そもそも山を殺すという意味が解らない。
「何言ってるの、ザップ、山殺しってあなたが魔国から買った武器よ、あのあり得ない大剣の事よ!」
「おいおい、何だそれ、高過ぎだろ」
「いいえ、ザップ、費用の詳細を見たけどほぼあの大剣に使われている金属の金額だけで、諸経費はサービスして貰ってる金額よ」
「まじか!じゃああれ返品するか?」
「ザップ、クーリングオフは10日間って書いてあったわ」
返品出来ないのか。
「じゃ、素材としてギルドに買って貰うか?」
「あのね、ザップ、市場価格と買い取り価格は違うの。すぐに売れるようなもの、金券や金額がすくない債券なんかでも下取り価格は8割9割で、多分その剣は鋳つぶしたりの加工賃とか希少性とか考えたら、良くて1割くらいでしか買い取って貰えないわ。要は大金貨200枚で売れたらいいほうよ」
「という事は、売った瞬間に大金1800枚が消えてしまうのか……なんか売ったら気分的に負けたような気がするな……」
「おう、元気出せよザップ」
モフちゃんが僕の足を肉球でぽむぽむする。
「返済は分割でもいいからな、その代わり利子はもらうがな。そろそろ気付いていると思うが、俺様の仕事はお前の監視なんだよ、借金踏み倒してトンズラしないようにな」
モフちゃんはニコッと笑う。うん、可愛いな。そっか、と言うことは、借金を長引かせたらモフちゃんはずっと居るって事か?
「モフちゃんは魔国からの監視員だったのね。けど、踏み倒したりはしないわ。ザップ、何とかお金は都合出来ると思うわ」
マイはタブレットを出して何かを確認している。
「リナとジブルが上手く売り抜いてくれたみたいね。手数料をリナとジブルの領域に入れて、一応モフちゃん現金を確認してね」
マイはタブレットを操作して机の上に大金貨を整然と並べた。
「100枚を20セットで2000枚ね、リナに送るわ、これで支払い完了ね」
「はい、毎度ありだニャー」
え、大金貨2000枚もう支払ったのか?
「ザップ、収納の中はもうすっからかんよ、今日から贅沢は出来なくなったわ…」
う、あんだけ苦労して稼いだお金が役に立たない大剣に消えてしまったのか……
しっかり働かないとな……