オオクワガタ
「クワガタ虫ってものはクヌギの木が大好きなんだ」
僕はクヌギの木を探す。波打ったような肌の木がクヌギのはずだ。
今僕達は、町の遙か北にある巨大樹の森という所に来ている。マイとドラゴンの化身アンも一緒で、猫のモフちゃんはお留守番だ。
今回ギルドで受けた依頼は巨大オオクワガタの攻殻の採取だ。夏になると現れる巨大昆虫の素材はとても固くてしかも軽く、高級防具の材料になる。その中でも特にオオクワガタのものは大人気だそうだ。
僕も子供の頃はよく虫取りをしたものだ。
そこまで報酬がいい訳ではないが、ついその依頼を引き受けてしまった。夏と言ったらカブト虫、クワガタ虫。昆虫は男のロマンだ。
「わっ、ザップ、あの蝶々とってもきれいね」
マイが僕の服の袖を引っ張る。紫色の羽の美しい蝶だ。けどデカイ。
「あれはオオムラサキっていう蝶だ。樹液が出ているクヌギとかの木によくいる奴だ。子供の頃、よく虫取りの目印にしていたものだ」
けど、圧巻だ。オオムラサキも大きい。大オオムラサキって言うのだろうか?言いにくい。
そこで、ある事を思い出す。カブト虫やクワガタ虫って確か夜行性だったような……
「ご主人様、蜂です!巨大な蜂です」
アンが驚きの声をあげながら、僕の服の袖を引っ張る。右手にマイ、左手にアン。なんか仲良しさんみたいだな。
「大丈夫だ、アン、あれはスズメバチ、こっちが何かしない限り襲いかかって来ないよ。だいたい、カブト虫やクワガタ虫は、スズメバチが傷をつけたクヌギの木の樹液を求めて集まるんだ。スズメバチがいないと森の生態系はなりたたないんだよ」
「そうなんですね、ビックリして損しました」
アンはそう言ってはいるが、まだビクビクして僕の服をつかんでいる。ドラゴンでも蜂は嫌なのか?
巨大なスズメバチとオオムラサキを目印に巨大な木の生えた森を進むと、強く樹液の匂いがしてきた。目の前に巨大なクヌギの木が現れる。しかもその木からは樹液が溢れ、そこには昆虫達のレストランがあった。巨大スズメバチ、巨大オオムラサキ、巨大カナブン、巨大カブト虫のメス、あと、幸運な事に目的の巨大オオクワガタもいて、ついでに巨大クロゴキブリもいる。
虫達が無言で樹液を吸う様はなんかほっとする光景だった。ゴキブリもいるが。
「う、地獄……」
マイが呟く。
「帰ってもいいですか?」
アンは後ずさりしている。
やっぱり、男と女の子では受け取り方が違うみたいだ。少し悲しい。
なんか邪魔するのは悪いような気がしたのだけど、速攻でオオクワガタだけ引っ掴んでその場を後にした。
なんか殺すのが、しのびなく、暴れるオオクワガタを逆さに掴んで森を駆け抜けた。
結局、僕は殺す事はできず、マイやアンも必死に嫌がって、オオクワガタはそのままギルドに納品されることになった。ちなみに、僕がペットで飼いたいという案は全力で却下された。