引っ越し
「タワーを迷宮都市オリンピュアに戻して欲しいのです」
導師ジブルは僕に頭を下げる。それに習い残りの評議員達も頭を下げる。あ、髪が薄い人もいるな。もし僕がああなったら問答無用でスキンヘッド1択だな。そんな下らない事を考えてしまう。ジブルは頭がいい、持って回った言い回しや、権力を笠に着たら僕がヒネると気付いて単刀直入に来た。
僕は今魔道都市アウフの魔道ギルドの本部の会議室にいる。導師ジブルに呼ばれて来た。横に長い会議机に評議員達がずらりと並びその中央には導師ジブルがいる。
「タワーの中にあった土は取り除いて何時でも運べます。このギルドの建物は十分に広さがあり、迷宮都市のギルド支部は今だに仮設の状態です。迷宮から出て来た魔道具は迷宮都市の支部で買い取っているのですが、いろんな実験やそれに関する実験をするにあたり、今現状では建物が足りてないそうです」
ジブルは滔々と話す。正直魔道ギルドの事なんか知った事ではないが、まあ、ジブルも困ってるみたいだし、元々タワーがここにある原因は僕なので、手伝ってやってもいいかなという気分になる。
「はい!」
マイが挙手する。
「それでは、私たちが冒険者としてその仕事を引き受けてもいいですが、報酬は何なのでしょうか?」
マイは評議員達をひとしきり見る。
「それは、暗黒竜王を封印してくれた時に戦った人数分の魔道都市の結界の中でも魔法を使えるようになる指輪でいかがでしようか?」
ジブルがマイの方をじっと見つめる。おっさんばっかの会議室で、猫耳美少女と幼女が見つめ合っている絵はとてもシュールだ。
「導師ジブル、俺達はほぼ魔法は使えないんだが」
魔道結界で魔道都市の街中では、国に選ばれた者しか魔法は使えないそうだが、物理特化の僕達にはあまり関係ない。けど、シャリーや少女冒険者達にはいい話なのかもしれない。
「ザップ殿、魔道都市アウフは、迷宮都市や近隣諸国に賠償金を払っている状態で、恥ずかしながら困窮しております。金銭は払えない状態なのですよ……」
「やむなしか。今回だけはその要求をのんでやるよ」
まあ、しょうが無いか、大した事するわけでもないし。
「私はそんな指輪要らないので、お腹一杯ご飯でも食べさせてくれませんか?」
ドラゴンの化身アンが危険な提案をする。
「え、アンさんそんな事でいいんですか?」
ジブルが騙されかけたので、僕とマイは助け舟を出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ザップ、斜めだね」
マイが体を傾けてタワーを眺める。
「うん、斜めだね……」
僕も、体を傾けてタワーを眺める。
迷宮都市オリンピュアののっぺりとした冒険者ギルドの本部の建物、墓石の隣に、また元のように魔道ギルドの塔、通称タワーが帰って来た。収納に入れて出すだけの簡単なお仕事だった。
ただ1つ問題は、塔を出したとたんに地盤沈下して数階分埋まってしまい、安定はしたんだけど、若干斜めになってしまった。前に塔を出したり入れたりしてた時に土台の大地が弱っていたみたいだ。
まあ、元々地下には迷宮の空洞があったみたいで遅かれ早かれ地盤を突き抜けてたと思われるが。
今日はもしもの為に塔を出す瞬間には迷宮の地下一層を封鎖していたので怪我人は皆無ではあった。
そして、タワーはそのあとオリンピュアの斜塔と言う名で迷宮都市の新たな名所になったそうだ。
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