魔道ギルド評議会
「魔道都市としては、迷宮都市オリンピュアにあったギルドの建物であるタワー消失に関してはザップ殿には一切の責の無いという見解で一致しています」
朗々とした感情を押し殺したような声が部屋に響く。
魔道ギルドの火と岩と風をイメージした紋章が左胸についた黒いローブ、それは
魔法を極め、人に教授する事が許可された者、『導師』のみが着ることを許されている。
その導師のローブに最高位を表す金刺繍が入ったものを纏った者11名が僕の前にすわっている。魔道都市アウフ魔道評議会の評議員だ。声を発したのはその評議員の中央に座している、1人だけこの場にそぐわない子供のように小柄であどけない顔の人物、ホップという小人族の魔道士ジブルだ。
僕、マイ、ドラゴンの化身アンは今、魔道都市アウフの魔道ギルド本部に呼び出され、その会議室で評議員達と話している。
「ですが、その一方では、タワーに収められていた数々の蔵書と集められた貴重な魔道具をどうにかして取り戻したいと思う者も多く、正面切って評議会に懇願する者、埋まったタワーを無許可で掘りおこそうとする者が後を絶ちません」
僕は頬が緩みそうになるのを必死で堪える。あの、ポンコツな幼女スケルトンジブルがまともな話をしている。その奇跡を目の当たりにして笑いを耐えている僕は正直凄いと思う。何故ならマイとアンは肩を揺らしながら俯いてジブルを正視出来てない。ツボにはまったのだろう。
「正直、あの戦いを間近で見た私個人としては、出来る限り暗黒竜王オブシワンを刺激したくは無い所ですが、ギルド自体が逼迫しているのも事実。迷宮都市に新たな建物を作りたいのですがその余裕がありません」
そこで僕はジブルに手のひらを向けて話を中断する。飽きた。辛い。長すぎる。モヤシのような魔道士のおっさんや爺さん達に恨みがましい目で見られながら幼女の話を聞く。正直拷問だ。お尻の辺りむずむずする。
「わかった、要はタワーの中身を取ってきて欲しいって事だろう?しかも当然報酬無しで」
僕の言葉に評議員達はざわめく。別に僕は礼儀作法をわきまえてない訳ではない。ただ、塔を無くした事は許すから中身をどうにかしろという評議会の態度が気に入らない。ただ中身を取ってきてってジブルが頼めば僕は動くのに。
「はい、ザップ殿そう言う事です。お願い出来ますか?」
ジブルが僕の目をじっと見つめて来る。
僕は軽く口角を上げる。ジブルの顔が少し緩んだ。安堵したのか?
「嫌だね、俺はお前達の指図は受けない!」
僕は立ち上がる。
「ザップさん……」
ジブルは呟く。辺りを静寂が包む。
バタン!
「すみません、今よろしいでしょうか!」
部屋の扉を勢いよく開けて衛兵が部屋に入って来る。
「何事ですか?今は大事な会議です!」
ジブルが叱責する。
「一大事です。中庭に、中庭にタワーが!」
衛兵の声に評議員達に動揺がはしる。
あらかじめギルドの建物の中庭に収納のポータルを設置していて、今しがたそこからタワーを出した。先日、黒竜王を埋めた所に行って収納に入れたタワーと同体積の岩石と交換してきたばかりだった。厳重な警備の中、妖精ミネアに協力してもらった。スリリングで面白かった。
「後は自分達でなんとかするんだな」
僕は評議員達に背を向けて歩き出す。振り返ると、何故か赤い顔でぼーっとして導師ジブルが僕を見つめていた。