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 努力と根性


「ギョギョ!」


 ゴブリンは僕を見ると一瞬怯む。威圧感を与えないために、普通の服に防具はつけず、当然武器も持ってない。僕は出来るだけ優しい顔で微笑む。まるで家族に対するように。怖くない。そうだ怖くないんだよ。

 ゴブリンは僕の方を見るとニタリと笑ったかのように見えた。


「ギヤキャギャー」


 甲高い叫び声と共に、錆びた剣を手に僕に向かって走って来る。


「ここだぁーっ!」


 今日は僕1人なので、何も気にせず叫ぶ。気合が入るというものだ。僕はゴブリンの前に出した足を外側から刈り、ゴブリンの剣は空を切る。転倒したゴブリンの喉に踏みつけるように足刀を入れる。決まった。


 パチパチパチパチ!


 振り返ると冒険者の一団。まだ綺麗な装備、駆け出しだろう。多分僕の雄叫びを聞いて駆けつけたのだろう。少し恥ずかしい。僕は軽く手を振ると駆け出した。『駆け出し』を見て駆け出した。しょうもない言葉が頭をよぎる。


 今、僕は『原始の迷宮』にいる。先日身に着けた『出足ばらい』という技は、『燕返し』という返し技の前に簡単に破れ去った。もっと『出足ばらい』を自分の物にする為にと、『燕返し』をもしされた時に『燕返し返し』を出せるようになるため、修行の為に来た。


 前回は回数を重ねるため、超回復能力を持つ巨大で汚いおっさんみたいな生き物、トロールをメインに練習したのだが、そもそもが間違っていた。頭が悪く鈍重な奴らは面白いように転倒しまくってくれたので、変な自信をもってしまったらしい。

 リザードマンやミノタウロスという猛者相手にしてこそ、技の高みに至る事が出来るだろう。

 

 ゴブリンやオークで肩慣らしして、トロールで遊んだ後にさらに深く潜る。出来るだけ魔物たちは殺さないように進んで行く。キャッチアンドリリースだ。町とかのそばで遭遇した魔物は退治するが、ここは迷宮。いるのはそれを倒して活計たつきを得ている冒険者たちだ。やり過ぎたら仕事を奪う事になる。今回は目当てである深部を目指し迅速に降りて行く。

 中層のフロアボスであるボストロルはしぶとくて面倒くさいのでハンマーで撲殺したあとさらに下層に進む。

 そして目当てのリザードマンのエリア。けど、リザードマンは拍子抜けだった。以外に弱っちくて面白いように足払いで転倒してくれる。これでは練習にならない。

 そしてヘルハウンドエリアを走り抜けミノタウロスの居る深層に至る。拍子抜けだ。ミノタウロスも話にならない……


 この迷宮でほぼ最強の二足歩行の生き物、ミノタウロス王が僕の目の前にいる。今日のミノ王は大きな斧を持っている。いいね、いいよ。やはり風格が違う。歴戦の猛者感がハンパない。


 ズデン!


 エンゲージする瞬間に足を払ってやるとミノ王は面白いように転倒した。ああ、お前もか……


 奴は頭を振って立ち上がると向かってくる。


 ズデン!


 また引っかかる。奴は立ち上がるが、まだ何をされたのか解っていないようだ。所詮牛か……


 ズデン!


 ダメか……ぶっ殺すか……


 また、立ち上がるが、次はジワジワと寄ってくる。やっと学習してくれたのか?


 ミノ王は斧を投げ捨てると手を広げた構えで僕に近づいてくる。多分この世界でミノ王とレスリングをする人間は僕が初めてなのではないだろうか?

 急速な踏み込みを狙われるのを学習したのだと思うが、甘いな!

 僕は近づき、ミノ王の左手を右手で掴み思いっきり引っ張る。奴はたたらを踏むように左足が前に出る。そのシフトウェイトの瞬間を狙って右足で奴の左足を刈る。


 お、避けられた!しかもその僕の足を刈ろうとする。『燕返し』だ!


 さすが王、土壇場で返し技を編み出すとは。けど甘い、さらにその足をかわして僕は奴の足を刈ろうとする。『燕返し返し』!


『燕返し返し返し』だ!ミノ王はさらにかわす。


『燕返し返し返し返し!』僕もさらにかわす。


『燕返し返し返し返し返し』さらにかわされる。僕はそれをかわすとミノ王を足場にして蹴って飛びすさる。十分だろう、けりをつけるか。

 僕は飛び込みミノ王を殴りつけようとする。


「!!!」


 ミノ王はその僕の踏み込みを『出足ばらい』で刈ろうとする。


「燕返しーっ!」


 僕は叫びながらそれをかわしてその足を刈る。タイミング完璧!ミノ王は転倒する。気持ち良すぎる!デルにやられた分の溜飲を下げる事が出来た。


 心ゆくまで、ミノ王と遊んで止めを刺してやり、僕は満足して帰途についた。しかもミノ王はスキルポーションをドロップした。


 


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