出足ばらい
「ザップ兄様、力を抜いてて下さいね」
エルフの野伏である、デルに言われた通り力を抜く。僕は左手をデルに右手で引っ張られる。細長い綺麗な手だと思ったけど、岩のようなゴツゴツした感触だ。なんて色気が無い手だろうか。
そして足を踏み出したと思ったらバランスを崩して、気持ち悪い浮遊感のあと大地に背中を叩きつけられていた。
何が起こったのか全く解らない。僕は背中をさすって立ち上がる。なんでいつも僕が技の実験台なのかという非難を体でアピールしているのだが、マイが軽く頭を下げただけだ。まあ、みんな僕の頑丈さを知ってるからしょうがないか……
僕達は週に1日、デルから格闘技を習っている。
前回は『肩車』と『背負い投げ』という派手かつ効果的な技だった。
「今の技は『出足ばらい』って言われてます。ザップ兄様、またいいですか?」
僕はまたモルモットみたいだ……
嫌とも言えず、デルの前に立たされる。
「ゆっくり大股で私の前を歩いて貰っていいですか?」
デルはしゃがんで言われた通りにその前を歩く。デルは前で布を合わせて胸元が開いた東方風の服を黒い帯で締めているスタイルなので、しゃがむと中が見えそうで慌てて目をそらす。ん、下着が見えなかったような?一応僕も男なので気になってしまう。
「この歩いている時に、後ろの足から前の足に重心が移動してから地上に足がつく瞬間に足を刈ります」
見ないようにしながらデルの前を歩いていると、急に足下が無くなったような感触がして、僕はまた転倒する。前に出した足をデルに後ろから送られたのに気づいたのは地面に叩きつけられた後だ。不謹慎な事を考えてたおかげで、綺麗にやられてしまった。
単純だけど恐ろしい技だ。不意を突かれると何をやられているか解らない。
「次はゆっくり私に殴りかかって貰ってもいいですか?」
デルが僕の前に屈む。そして僕に手を差し出す。いかん、胸元から何か見えそうだ。その戦闘能力から忘れそうになるが、デルはサラサラ金髪の絶世の美人さんだ。なんか少し意識してしまう。
「ああ……」
僕はそのゴツゴツした手を取って立ち上がる。そして距離を取り対峙する。
「行くぞ」
僕は軽めにデルに向かって殴りかかる。
「攻撃するときも、必ず足を出してから攻撃するものです。その足を刈ります」
気がつくと僕はまた大地に叩きつけられていた。いかん、来るのが解っていたのにやられてしまった。
「ザップ、大丈夫か?また派手にやられたな」
猫のモフちゃんに慰められた。なんか屈辱。
「それでは、私とザップ兄様、マイ姉様とアンさんで練習しましょう」
そして僕達は『出足ばらい』の練習を始めた。
「ザップ兄様、不器用ですね……」
デルから憐れみの言葉をかけられる。
マイとアンはコツを掴んだみたいだが、僕は全く上手く行かない。屈辱だ……
「1日修行に行く、24時間後に集合だ!」
僕は言い残しそこから走り去った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「デル、極めたぞ!」
ちょうど24時間後、僕は改めてデルと対峙する。あの後、魔王リナのワープポータルを使って太古の迷宮に飛び、あらゆる生き物たちに出足ばらいをかけまくった。もう一つマスターしたはずだ。
僕はデルの左手を右手で引いて前に出た足を刈る。タイミングは完璧だ貰った!
と、思った瞬間には僕はまた大地に叩きつけられていた。
「今のが『燕返し』という返し技です。簡単です。かわして、その足を刈るだけです」
デルの声が聞こえる。
そうだよね、あるよね返し技。
「おう、大丈夫かザップ?」
また、猫に慰められる。僕は少し涙ぐみそうになった。