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 貴腐ワイン

 お酒は大人になってからでお願いします。


「マイ、なんだそれ?お酒なのか?」


 晩御飯の後、マイが透明な瓶に入った液体を持ってきた。中には金色の液体が入っている。


「うん、お酒だよ、アンジュたちが貰ったらしくて、飲まないからってくれたのよ」


「ほう……」


 僕は瓶を手にする。高い酒なんだろうな。透明な瓶は貴重品だ。それだけでも結構な値段がつく。瓶を光に透かすが中にはおり1つも無い。なんかスキルポーションみたいな色してるな。

 僕は喉を鳴らしてしまう。黄金の液体であるスキルポーションはハチミツみたいな味でとっても美味しい。


『それってもしかして貴腐ワインじゃないですか?』


 魔道都市の導師ジブルだ。今日は魔術のレクチャーの後、うちでご飯を食べていた。何故かいつの間にか骨になっている。


「ワインらしいって言うのは聞いてるけど、貴腐ワインって何なの?」


 僕はワインと聞いて興味を失い瓶をテーブルに戻す。僕が生まれて始めて飲んだお酒はワインだが、なんか渋くて酸っぱくてどこが美味しいのか解らなかった。要は苦手だ。それに僕はお酒弱いしな。


『特殊な環境でしか作れない白ワインで、めっちゃ貴重らしいです。多分それ1本で大金貨数枚分くらいの価値はあると思いますよ。それにめっちゃ甘くて美味しいって聞いた事があります』


「甘くて美味しい!」


 ジブルの言葉に食いしん坊ドラゴンの化身のアンが食いついてくる。こいつは酒にはあまり興味が無いみたいだけど、甘いのならいいのか。

 けど、アンジュたちはそんなに高級な物を誰から貰ったのだろう。もしかして誰かに貢がれてるのか?面白そうだから今度聞いてみよう。


「じゃあ、アンちゃんは飲むわね、ザップは?」


 マイがタブレットを出して収納からガラスのグラスを2つ出した。


「いただこうかな」


 マイはもう1つグラスをだす。


『私もいただきたいです』


「僕もほしいニャー」


 骨と猫がマイにねだる。こいつらに高級な酒は有名な東方のことわざ『猫に小判』だろう。東方では小金貨の事を小判と言うらしい。

 ちなみにモフちゃんは何かおねだりするときだけ語尾に『ニャー』をつける。あざといけど、モフちゃんは正義だ。可愛いからよし!


「じゃあ、モフちゃんは少し舐めるだけよ、ジブルは飲めないでしょ」


『解りました。戻ります。食後に骨になると太りにくいって聞いたけど、しょうがないですね』


 ジブルに黒い靄が集まって、幼女に戻る。太りにくいって誰に聞いたんだろうか?まず第1に食後に骨になれるのはこの世でジブルしか居ないのでは?


 マイはもう一つグラスを出して瓶を手にする。瓶にはコルクで栓がしてある。


「どっやって開けよう」


「え、マイさん、ここにはワインオープナーないのですか?」


 そもそもワインは飲まないし、瓶に入ったワインを飲むのは上級貴族とかくらいだろう。


 シュポン!


 マイは瓶の口のコルク栓を指で摘まむと軽々とそれを引き抜いた。


「マイ、人前ではそれは止めとこう。多分見てる人はドン引きする……」


 今の芸当は僕ですら出来ない。僕ですらすこしびびった。


「うん、少しワイルドすぎたわね」


 マイは少し赤くなって頭を掻いた。





「じゃあ、かんぱーい!」


 マイが音頭をとり、僕達はチンとグラスをあてる。


 黄金の液体を口に含む。濃厚なハチミツのよう甘さにフルーツの香り、お酒な筈なのに全くお酒を飲んでる気がしない。スキルポーションより美味しい。本当にこれはワインなのか?僕のワインに対する常識がひっくり返った。


「うわ、なにこれ、美味しい。お酒じゃないみたい。これならどれだけでも飲めそう」


 グラスをくいっとあけたマイは、その中に残った数滴を手に垂らし、モフちゃんに差し出す。モフちゃんはそれを舐める。

 羨ましい。どっちの立場にもなりたいな。


「これは、いいですね、けど、私、体が熱くなってきました」


 アンは赤い顔をしている。もしかして、こいつもお酒に弱いのか?


「美味しいですね、ザップさん、私を酔わせて何するつもりなんですか」


 ジブルも顔が赤い。こいつも酔ってるな。いつもながら意味不明な事をほざいている。


「ザップー、なんか体が熱いわ……早く寝よ……」


 マイが椅子の後ろからしなだれかかってくる。お酒に強い筈のマイがおかしい。もしかして、このお酒、めっちゃアルコール強いのでは?


 辺りを見渡すと、アンもジブルも、モフちゃんも寝息を立てている。


「じゃ、マイ、行くか」


 僕は振り返りマイをじっと見つめる。


「うん、いこ……」


 マイは潤んだ瞳で僕を見ている。


 僕はマイを片手に立ち上がり、テーブルの上の残った僕のワインのグラスを口にあて、一気に飲み干す。辺りの景色がぐにゃりと歪む。

 僕が覚えているのはここまでだ。気がついたら床で寝ていた。


 貴腐ワイン、とっても美味しくて飲みやすいから、みんなほぼ一気に飲んでしまったが、アルコールの強さ故にすぐ寝てしまった。

 酔っ払ったマイは新鮮だったので、今度貴腐ワインを見つけたら僕は我慢して飲まない方向性でいこうと思った。



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