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 皆既月食 後編

 どうも曇りで月は見えなさそうです(T_T)


「ザップにゃーん、こんな所にいたのねー」


 マイの声がして振り返る前に体が軽くなる。どうやら捕まったようだ。


「にゃ!」


 つい漏れる言葉は猫言葉だ。僕はそのままマイにだっこされた。


 いかん、これは幸せだ。なんとはなく、いや、何かは解っているが、柔らかいものに包まれている。しかも、なんか花のような甘い良い香りがする。どうも猫はいつもの僕よりも嗅覚が優れているみたいだ。

 そしてそのまま外まで連れて行かれて、梯子で屋根の上にマイは登る。上ではラパンとシャリーが屋根の天辺に座っている。


「マイ姉様、気をつけて下さいね、足場が悪いですから、ん、新しい猫ちゃんですか? ぶっさいくですね」


 ラパンがマイに話かける。猫って以外に便利だな、薄暗い中でもよく見える。


「ラパンちゃん、この猫ちゃんザップよ、モフちゃんの魔法で猫ちゃんになってるの」


「まじですか、あたしも猫ちゃんになりたいです」


 シャリーがキラキラした目で僕達を見ている。うん、猫はいいぞ、猫は。


「後で頼んでみたら」


 マイはラパン達から少し離れて座る。


「マイ、そろそろ離してくれないか? 息がつまりそうだよ」


「あ、ごめん、ザップ」


 僕は少し未練はあるが、やっと解放されてマイの横に座る。


 空には、少し欠けた月が見える。月明かりに照らされたマイを見上げる。綺麗だ。まるで陳腐だけど、地上に舞い降りた女神さまみたいだ。


 僕の横に小さい影が3つ現れる。モフちゃんと、なんかやたら毛が長い猫と、全身が鱗みたいなものに覆われた猫みたいな生き物だ。


「モフー、なんで私だけ可愛くないんだ?」


 鱗猫が口を開く。少し声が高いがアンだろう。


「アン、よく見ると可愛いわよ」


 やたら毛が長いのはミネアか。


「しょうがないだろ、ドラゴン、レジスト高すぎるんだよ」


 モフちゃんが面倒くさそうに答える。


 そして、僕達はくだらない事など話ながら、月を見続けた。けど、しばらくして飽きてきた。


「不思議だね、月が一日で、満ち欠けするなんて」


「そーだな」


 僕はマイに答える。


「ザップ、月食嫌いなの?」


「いい思い出がないからな」


「聞かせて」


「ああ、月食の時には、偶然かもしれないが大事な人、大好きな人と別れた事が多い」


 家族、仲間などだ。僕は目頭が熱くなり、いたたまれなく、立ち上がり少し突き出た家の煙突に登る。


「大丈夫よ、あたしたちは居なくならない」


 マイが煙突から僕の体を持ち上げ抱き締めた。暖かいな。


「キャツ!」


 マイが僕を取り落とす。いかん、体がもとに戻り始めている。


「ご主人様、服、服!」


 鱗猫がさけぶ。そうだ服脱いで来たんだ!


 僕はバランスを崩して屋根を転がり落ちていった。


 月食、悲しい別れはなかったけど、裸で宙を舞うという新たな悲しい思い出ができた……


 

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