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 皆既月食 前編


「ザップも月、見ない?」


 夕飯のあと、マイが僕の顔をじっと見つめてくる。今日はこれから月食を見るために、ラパンとシャリーと妖精ミネアが来ている。3人は最近は『みみずくの横ばい亭』の2階で生活している事が多いのだが、どうやら今晩はうちに泊まるみたいだ。みんなでひとしきり新しい家族のモフちゃんと遊んだあと、マイが僕を誘った。


「ザップ、今日は皆既月食よ、なんと月が消えるのよ!」


 妖精ミネアが無意味にドヤる。多分さっき『皆既月食』って言葉を初めて知ったから、それを自慢したいのだろう。まったく、子供なのか?


「妖精はお馬鹿だな、月が消える訳ではない。月の光が消えるだけだ」


 モフちゃんがけだるそうに妖精を諭す。


「生意気な毛玉めー、とうっ!」


 ミネアは小妖精スタイルでモフちゃんに抱きつきモフモフの海を堪能したあと、さらにモフちゃんをモフるためにわざわざ魔法で羽の生えた小妖精から人間に変身した。羨ましい、僕もちっちゃくなってモフモフに埋もれたいものだ。


「月食か……今までまじまじと見たことはないな……」


 正直、月食にいいイメージがない。


「じゃ、ザップも見にいこ」


 マイが近づき僕の服を引っ張る。ラパンとシャリーはもう、月を見るために屋根上に向かっている。けど、その前に。


「ミネア、モフちゃん、なんか体が小っちゃくなる魔法はないのか?」


 駄目もとで聞いてみる。モフちゃんもミネアも『世界』を冠する至高の魔法の保持者。もしかしたらいけるかもしれない。僕もモフモフにダイブしたい。


「んー、あたしにはそんな魔法のレパートリーないわね、今度里に帰ったら探してみる」


 そっか、やっぱ駄目か。


「ザップ、小さくなれればいいんだな。俺様に任せろ。ザップ、リラックスして魔法に身を任せろ。抵抗するなよ」


 リラックスの仕方なんか解らないからとりあえず目を瞑ってみる。なんか暖かいものに包まれた感じがして、服が弛むのを感じる。もしかして体が縮んでいるのか? 目を開けると暗い。僕は服に埋もれているみたいだ。そして服から出る。ん、立ち上がれない。四つんばいになってて目の前に毛だらけの足が見える。


「うにゃあ」


 口を開くと猫のような鳴き声が……


「うわ、ザップ? なにそれ、たぬき?」


 ミネアが僕の前にしゃがむ。む、ミネアがデカイな。ていうか僕が縮んたのか。


 僕はモフちゃんを視界に捕らえるとモフるために駆け出す。四足歩行に慣れていないのでぎこちない。モフちゃんにダイブするが、どうも僕の方が大きいみたいで思いのほか、モフちゃんに触れている部分が少ない。その時、僕自身にも毛がびっしり生えているのに気づく。薄々気づいていたがもしかして僕は猫になったのか?


「鏡で見てくる」


 お、話せた。けど、いつもより声が高い気がする。寝室にある全身鏡の前に行くと、そこには茶色い毛の長い、狸のような生き物が映っていた。

 

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