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第三十四話 荷物持ち怯える


「お願いです。無理矢理ださせたり、固い棒でつつくのは止めてください……」


 少女は震えながら地面に額を押しつける。


「え、服を脱いで、女の子に会いに行って、無理矢理ださせて、固い棒でつつく?」


 マイがこっちを向いて、腰に手をあて仁王立ちする。なんか、彼女が若干大きくなったような圧力を感じる。


「ザップ! どういうことよ! 女の子に何してたの!」


 怒ってる……


 マイが怒ってる……


 そういえば初めて彼女が怒るのを見た。


 冷たい空気が押し寄せてるように感じる。初めてドラゴンの咆哮を聞いた時のように、体に力が入らなくなる。


 正直訳がわからないが、一つだけ解る事がある。マイはレベルアップして間違いなくドラゴン以上の存在になっている。これ以上怒らせたら命取りになりかねない!


 そう言えば死んだ祖父から聞いた事がある。女の子を怒らせたらとりあえず謝れと。


「怒らせたのなら、すまない。俺にもなんのことだかさっぱりわからない」


 僕はとりあえず頭を下げる。少しマイの威圧が和らいだような気がする。


「そこのあなた、ザップに何をされたの?」


「私が寝てたら大きな音で起こされて、行って見てみたら、この人が裸で暴れてたんです。怖くなって、口から吐いたあと、頭を棒で叩かれて、変な液体をたくさんかけられました……そのあと、口からだせだせと棒で小突かれて、最後は口に入れたくないのに無理矢理食べさせられました……」


 そう言うと、少女は女の子座りで顔を上げて、声を上げて泣き始めた。


 おいおい、こいつの言い分では、まるで僕が完全に変質者みたいではないか!


「そんなことした覚えは全くない! そもそも俺とこいつとは初対面だ!」


 汚いものを見るような冷たい目で、マイが僕を見ている。僕は何もしていないのに、なんでそんな目をするんだ……


「そうは言っても、この娘、本気で泣いてるわよ。ねえあなた、あなたにひどいことしたのは本当にザップなの? よーく見て」


 少女は顔を起こすと僕を見る。ガタガタと震え始める。


「ごめんなさい、許して下さい、間違いなくこの人です。いや、すみません。このお方です……」


 少女はぶつけるかのように地に額を押しつける。


「可哀想に、こんなに怯えて……」


 マイは少女に近づくと、優しく背中をさする。


「ザップ! 説明して! どういう事なの!」


 マイが声を荒げる。彼女からの圧力がまた強くなる。辺りの空気が明らかに冷たくなる。震えそうになるのを力で押さえつける。


 どうする? どうしたらいい? どうしたらこの窮地を脱出する事ができるのだろうか?


 

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