猫猫猫
猫ちゃんって可愛いですけど、私、動物アレルギーでたまに触る事しか出来ないんです。それで余計可愛く感じるんだと思います。
僕の家に猫が来た。
今はマイの膝の上で大人しくなでられている。
「んー、可愛いねこちゃんでちゅねー、お名前なんにしまちょーか?」
あ、マイが溶けている。因みに僕と違いマイは逆にやたら動物が寄ってくる。犬や猫だけじゃなく、猪や熊、果てはゴブリンやオークですらも寄ってくる。最近はゴブリンやオークですら逃げ出してしまう僕にとっては羨ましい限りだ。
そして、マイが猫とかに絡まれてモフモフしているのを遠くから眺める僕という図式が仕上がっている。
「猫っておいしいんですか?」
ドラゴンの化身アンの言葉に猫はビクッとする。相変わらずぶれない奴だ。猫ちゃんを口にするとか僕は今まで考えた事すらない。
「アンちゃん、何言ってるのよ! もし、モフちゃんを食べたら、尻尾ちょん切って食べるわよ!」
マイがキッとアンを睨む。複雑だ。猫を食べて、その猫で出来た体のドラゴンの尻尾を食べる。食物連鎖って奴だな。
けどそれって回り回って猫を食べる事になるのでは無いだろうか?
猫好きな僕はそれも御免被る。なんか気持ち悪いので考えるのを止める事にした。
「だって、モフちゃん、牛みたいな柄で、もこもこしてて美味しそうじゃないですか?」
なんか猫の名前は『モフちゃん』に決定したみたいだ。けど、なんでも口に入れようとするのはよろしくない。赤ちゃんじゃあるまいし。アンの主人として間違いは正さないといけないな。
「アン、猫というものは食べるものでは無く、そのモフモフを楽しむものだ。あのー、モフさん、わたくしめもモフモフしてもよろしいでしょうか?」
僕は一応モフさんにお伺いをたてる。近づくと猫が逃げる。その悲しい日々は僕を卑屈にしたようだ。
「おお、いいぞ。ザップ、触れ。けど、俺様の名前はシュナだ。そこは譲れんな」
「「猫がしゃべった!」」
マイとアンの言葉が家の中で響いた。
「おいおい、何驚いてるんだ? 家にモフモフの猫がいる。それだけであとはどうでもいいじゃないか」
僕はモフちゃんの背中をなでなでする。ああ、最高だ。ん、マイがその僕の方をじっと見ている。マイはまだモフり足りないのか?
「それもそうよね。喋る大トカゲもいる事だし」
マイはすんなり納得した。モフモフは正義だ。
「マイ姉様、大トカゲはあんまりですよ」
アンは口を尖らせる。
「アンちゃん、それなら2度とモフちゃんを食べるなんて言わないでね」
マイはアンに優しく微笑む。この笑顔攻撃は無敵だ。
「はーい」
マイの笑顔には凶悪なドラゴンも敵わない。
「そうだ、ザップ……あたしの耳、触ってもいいよ」
ん、どうしたんだろう。滅多にマイは耳を触らせてくれないのに。今日の僕は最高についてるのか。そう言えば東方ではこういうのを『盆と正月が一緒に来た』とか言うってマイが言ってたな、まさにそんな気分だ。
「いくぞ!」
首肯したマイの耳を触る。「んっ」とマイは声を上げるが僕は優しくモフモフする。ああ、幸せだ。僕は今モフモフしている。まるで世界の全てを手に入れたみたいな気分だ。十分に堪能して手を離す。
「なぁ、マイ、こいつ家で飼ってもいいか?」
そう言えば聞くのを忘れていた。
「そうね、ザップ、モフちゃんとあたしの耳どっちが良かった?」
マイが笑顔で聞いてくる。
「モフちゃん!」
僕は即答する。
「アンちゃん、この猫ちゃん捨てて来て」
マイが笑顔でアンに言う。え、なんでそうなる。
「ザップ、お前は馬鹿なのか? もっと考えろ」
モフちゃんはマイの膝から飛び降りてアンから逃げる。
「冗談だ、マイ、マイの耳の方がいいに決まってるじゃないか!」
僕は急いで言いなおす。
「やーねー、冗談よ、こんな可愛い猫ちゃん飼っていいに決まってるじゃない」
マイはニコリとしたけど、さっきのは冗談には聞こえなかった。女の子は怖いな。気をつけよう。