森人角力
「それで、何処でデルは格闘技を身につけたんだ?」
今まで僕達、僕とマイとアンはエルフの冒険者デルに柔術という格闘技を教えて貰っていた。
デルの格闘技はかなりの水準のものだと思う。昨日今日始めて身につくようなものには決して見えない。
「・・・・ザップ、ちょっと待って、それには触れない方がいいわ。多分言いたく無い事だと思う・・・・」
マイが僕に耳打ちする。
「いいですよ、マイ姉様。私達は仲間というか今は家族のようなものです。私達エルフと言う種族は家族の絆を何よりも大事にします。ありふれた、たいして面白い話ではないかもしれませんけど、昔の話をしようと思います」
デルは後ろにまとめていた髪をほどく。金色の長い髪がキラキラと光り流れる。その顔には微かに憂いが張り付いている。綺麗だ。まるで神話の中から飛びだして来た女神みたいだ。索敵が得意な力士という認識だったけど、少し見惚れてしまった。
もしかしたら、人に言いたくない過去があるのかもしれない。聞いちゃいけない事だったかな。でも本人が話してもいいって言ってるから聞くべきだろう。
「デル、コーヒーでも飲もっか」
マイはそう言うと、タブレットを出して、テキパキと僕の収納からテーブルと人数分の椅子を出す。そして、デルが手慣れた手つきでタブレット操作するとソーサーつきのカップに注がれたコーヒーが現れた。みんな手慣れてるな、僕よりも魔法の収納の能力を使いこなしているのは気のせいだろうか?
「私の実家は東方諸国連合の北にある、『失われた森』の奥深くにあります。私達の部族は太古から格闘技が盛んで、世界各国各地からその技術を集めています。私はそこの族長の家に生まれ、男の子として育てられ、私も自分は男の子だと思って生きて来ました。特に私は成長が遅い方でしたので」
僕達は頷く。マイとアンはデルの胸あたりをガン見している。それって失礼極まりなくないか?
「私は村の中で幼い頃から男の子達と技術を磨きながら成長しました。『突き蹴り3年、投げ8年』ということわざにあるように、格闘、特に柔術の技を極めるのは過酷でしたけど、私には小さい頃からの夢があり頑張れました」
デルは言葉を切るとカップに口をつける。
なんか、エルフって温厚なイメージなのに、デルの実家って。
「夢ってどんなのなの?勇者のお嫁さんになるとか?」
マイが微笑みながらデルに話しかける。
「マイ姉様、聞いて無かったのですか?デルさんは男の子として育てられたんですよ」
アンがイタズラっぽく笑う。なんかオチを感づいてるのだろう。
そして、デルが口を開く。
「村では年に1回『森人角力』の大会があって、それの若者の部で優勝するのが私の夢でした。その相撲のルールは土俵という丸で囲まれた中から出るか、地面に足以外の所をついたら負けです。そして、その格好は裸にまわしという下半身を覆う帯みたいなもので全身に油を塗って戦うというものでした。やっと出場出来る年になった私は、自分が女と言うことを知らず、喜んで出場して、決勝戦で父親に止められてしばらく家の中で色々教えられました。晒し者です、今でも村の中を歩くと馬鹿にされます。そしてグレて家を出て放浪したあと今に至ります」
なんかツッコミ所たくさんな話だけど、僕は何て言えばいいか解らなかった。
マイとアンはツボったみたいで、お腹を押さえて必死に笑うのを堪えている。