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 荷物持ち捕まる


「グゲグゲッ!」


「ギャギャギャッ!」


 ゴブリン達が楽しそうに会話している。


 今、僕はぐるぐるに縛られている。ゴブリン達に散々ハンマーや棍棒で打ち据えられたあと、一本の棒に手足を括り付けられて、まるで獲物かのように運ばれている。2匹のゴブリンが僕の縛られた棒を担いでいて、さらにもう一匹が執拗に僕の尻を槍でつついている。


 甘いな!


 そんなチンケな槍では僕の尻には毛ほどの傷をつける事も出来ない。


 ゴブリン。


 それは、人間の子供くらいの背丈の闇の眷族だ。ずる賢く、徒党を組み人々に襲いかかる。その気性は残忍で何らかの魔道具が無い限り人が使役する事は出来ないと言う。要は人と相容れる事の出来ない害虫のような生き物だ。


 捕まった生き物に待って居るのは等しく死の運命のみ。散々いたぶられて食料になるか、女性だと子供を作らされていたぶられたのちに同様の運命をたどるという。


 僕にはどういう運命が待っているのだろうか?どういういたぶられ方をされるのだろうか?


 僕はワクワクしながら、真っ暗な洞窟の中を奥に奥に運ばれて行った。


 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「誰か助けてくれ!ゴブリンだ!ゴブリンが出た」


 僕が1人で『みみずくの横ばい亭』で食事をとっていると、血をながした1人の中年の男性が店に転がり込んできた。

 この街には冒険者ギルドは簡易支部が最近出来たばかりで、そこが空いているのは毎日午前中だけだ、昼を回ると冒険者に依頼をしたい時には、酒場か宿屋で直接交渉するしか無い。ここの女将のマリアさんもそんな困った人と冒険者の仲介もしていたりする。


「大丈夫ですか?」


 マリアさんが濡れた布を男性に渡す。


「俺の事はいい!お嬢様がゴブリンに捕まった。誰か誰か助けてくれ!」


 男は空いてるテーブルに革袋をひっくり返す。その中から大金貨がジャラジャラ転がる。

 辺りを見渡すが、今いる冒険者は僕だけだ。


「引き受けた。案内してくれ」


 僕はその金貨を1枚摘まむと軽く男の傷を癒して、店を後にした。そして、街道の強襲された場所にたどり着き、男と別れて足跡をたどり、巣穴を見つけてすんなりゴブリンに捕まった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「きゃー、やめてー、誰か誰か助けてー」


 上等そうな服を着た女性がゴブリンにいたぶられている。どうも少しづつ服を刻まれているようだ。


 僕は今、縛られてゴミのような物の上に投げ出されている。広い部屋で灯りはついている。

 捕虜は女性の他に3人、ぼろぼろになった冒険者だ。怪我はしてるが死んで居ない。けど、このままだと長くは保たないだろう。


 ゴブリン達はなかなか良い趣味をしてやがる。明るいほうが何をされてるかよくわかって捕虜はより泣き叫ぶだろうし、いきなり手をつけるのではなく、少しづつ服を剥ぐことで、長くその行為を愉しもうとしてるのだろう。


 けっ、反吐がでる!


 冒険者を観察するが、体型、着けてる防具から見るに決して駆け出しでは無いと思われる。

 それなら、ここにいるゴブリンは今は5匹だけど、こいつらは見張りで残りはかなりの数いるのか、強力な個体が居るのかもしれない。


 女の子がいたぶられるのを楽しむ趣味はないので、僕は立ちあがってお楽しみ中のゴブリンにタックルをかます。


「おい、クズ野郎、俺と遊べ!」


 僕はゴブリン達をぐるり見渡す。ゴブリン達は嗜虐的な笑みを浮かべ僕を見る。


「大人しくしていて下さい!私が出来るだけ時間を稼ぎます。そのうちに助けが来るかもしれないです!」


 女性は気丈に僕を見上げる。む、まだ若いな女性と言うより少女だ。


「俺がその助けだ」


「何言ってるんですか?キャッ」


 ゴブリン達はわらわらと僕に群がってくる。とりあえず床に転がってやる。奴らは棍棒で僕を思い思いに打擲したあと、大きな斧を二匹がかりで持ってくる。


「ごめんなさい、私のために、弱いのに命をかけてくれて……」


 少女の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


「グギャギャ!」


「キャーッ!」 


 無情にも僕の首筋に斧が振り下ろされる。


 ガッ!


 鈍い音がしてゴブリン達は斧を取り落とす。当然無傷だ。


「もっと強い奴呼んでこい!」


 僕と目が合ったゴブリンはビクッとすると部屋の入り口に走って行った。言葉が通じなくてもわかり合えたはずだ。


「え!!」


 少女は固まる。


「誰が弱いのか?」


「嘘でしょ、あなた何者なの?」


 まん丸の目で少女は僕を見つめる。


「ザップ・グッドフェロー。荷物持ちだ」


「ええええええーっ!」


 少女の叫び声が部屋にこだました。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「グゴゴーッ」


 デカイゴブリンが斧を振り上げる。


「「「ギャッギャッギャッ」」」


 ゴブリン達がそれをはやしたてる。なんだかんだで多分30匹以上いる。全員集まってるはずだ。こいつは思いのほか数が多いな、どっからか流れてきたのか?


 キラキラした期待に溢れる目で、ゴブリン達はデカゴブリンを見ている。僕の首が落ちるのを楽しみにしているのだろう。


「グガーッ!」


 気合いを上げながら、デカゴブリンが2匹のゴブリンによって床に押さえつけられた僕に斧を振り下ろす。


 ザシュ!


 デカゴブリンの首が体から別れる。


 瞬時に戒めを解いて、デカゴブリンの斧を奪いその首を刎ねてやった。


 静寂が辺りを支配する。


「かかってこい」


 僕は手招きするが、ゴブリン達は固まったままだ。逃げられたり、捕虜に手を出させる訳には行かないから、やむなく一方的な虐殺を繰り広げた。しばらくあとには首の無いゴブリンの死骸に囲まれていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


「「「ありがとうございました」」」


「気にするな、仕事をしただけだ」


 僕は町の入り口でお嬢様と冒険者達と別れた。町の衛兵達が襲われて命を失った者たちは弔ってくれるそうだ。あと、巣穴の掃除は冒険者達に任せた。


 世界は残酷だ。少しでもそれを優しくできればいいなと思いながら、僕は家路についた。


 

 

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