冷却魔法
「導師ジブル、折り入って頼みがある」
僕は導師ジブルに頭を下げる。
導師ジブル、放浪を愛する小人族の一種『ホップ』の魔法使いにして、東方諸国と王都の魔道士ギルドの総本山である魔道都市ギルドの評議員にして『導師』の称号を持つ者。その魔力は群を抜くらしい。
見た目は10才位の幼女にしか見えないが、中身は20代で、なんか結婚に焦っているように見える。しかも、骸骨化という呪いのようなスキルに振り回されていて、中々残念な人物だ。
「ザップさん、喜んで。ふつつか者ですがよろしくお願いします。それで、式はいつですか?」
ジブルは深々と頭を下げる。
「ジブルちゃん、何言ってるのかなー?」
マイが座っているジブルの後から抱きつく。目が全く笑ってない。
「マイさん、冗談ですよ、冗談!マイさん馬鹿力ですから、痛いですよ」
あ、ジブル、死んだな……
ジブルは肌が浅黒く変色すると、サァーッと黒い霧になりその肉体が消え失せて後には白い骨だけが残った。正直ホラーだ。マイは軽く悲鳴を上げてジブルから離れる。
『マイさん、危険を感じて骨になっちゃったじゃないですか。これって結構疲れるんですよ。それで、ザップさん頼みってなんですか。私に出来る事なら協力しますよ』
ジブルが漆黒の眼窩を僕に向ける。正直、何を考えているのか表情からは読み取れない。ふと、豆かなんかがあったら目の空洞に向けて投げてみたい誘惑にかられるが手元に無いので我慢する。
「とりあえず、元のジブルに戻ってくれないか?」
スケルトンジブルはポンコツだ。何の役にもたたない。歩くのは遅い。戦えない。魔法はほぼ使えない。骨なのに恥ずかしがる。お湯に入ったら出汁が出る。
うん、考えれば考えるほどいい所なしだけど、僕的にはなんか見てみるとほっこりする。ガリガリの骨だけど、動きの鈍くささがなんかいい感じだ。
「早く、可愛いジブルちゃんに戻って」
マイは幼女タイプの方が好みらしい。
『いやデース!お化けですよ~』
ジブルが立ち上がってマイに振り返る。
「きゃあ!ザップ、こわいーっ」
マイが僕にわざとらしく抱きついて来る。
『うわ、イチャつく口実にされてしまいました。なんか、少し不快なので戻りますよ』
スケルトンジブルの回りに黒いもやが集まって肉体を形作り、元の幼女に戻る。
「それで、何をしたらいいんですか?」
ジト目で僕達を見るので、未練たらしくマイが離れていく。
「暑いから部屋を冷やしてくれないか」
僕はジブルに頭を下げる。暑いんだよぉ。
「いいですけど……」
ジブルが呪文を唱え、みるみる辺りは涼しくなる。けど、まだ足りないな。
「もう少し頼む」
「はい……」
なんか腑に落ちないような表情で、ジブルはまた魔法を使ってくれる。ジブルは頭がいいから、僕が部屋を冷やす理由が何かを探しているのかもしれない。実際は大した事ではないのだが。
けど、まだ足りないな。
「ジブル、もっと少し冷やしてくれないか?」
「わかりました。少し本気出しますね」
ジブルが魔法を唱え、少し肌寒い位になってきた。そろそろ頃合いか。
「何やってんですか?寒くて眠れないじゃないですか」
ソファで寝てたアンが起きて抗議する。
トン、トン、トン、トン。
僕は収納から熱々の担々麺を出して机に置く。
「よし、食うぞ、今日は出前じゃないから替え玉は無しで、おかわりは一杯単位だ」
「こんな事のために私の魔法を……素晴らしいです!」
ジブルは担々麺に飛びついた。
「そうよね、暑いと汗かくからなんか辛いもの食べたくなるけど、滝みたいに汗かくのは嫌だし。ジブル最高!」
マイも飛びついた。
「そういう事だったのですね、おかわりお願いします」
「おい、アン、今全部飲んだだろ、ジブルが居ないと愉しめないんだからしっかり味わえよ」
「ザップさん、ザップさんのためなら何時でも冷やしに来ますよ」
ジブルは満面の笑みだ。
「ジブルちゃん忙しいんでしょ、あたし、頑張って涼しくする系の魔法覚えるわ」
なんか、マイとジブルが張り付いた笑顔で見つめ合っている。
最終的に、僕は3杯、ジブルとマイは2杯、アンは9杯、久しぶりに担々麺を堪能した。
結局汗まみれになって、そのあとお風呂で汗を流した。