第三十三話 荷物持ち調教する
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「もうすぐ出来るから早めに帰ってきてね」
マイは鍋で肉を煮こんでいる。指先から出した火で、壊れた武器の木の柄に火をつけて薪代わりにして温めている。レベルアップして、生活魔法の威力が上がったのだろう。着火が早くなってる。
マイは作業を止めて、僕に手を振る。一瞥し、僕は一応ハンマーを持ってドラゴンの所へ向かう。
ドラゴンは、大部屋の奥にいた。僕が近づいても動かない。寝てるのか? 緊張感の無い奴だ。軽くハンマーで頭を小突いて起こしてやる。
「ブレスを吐け!」
言葉が伝わったのか、空気を読んだのか、ドラゴンはブレスを吐く。それをもらすことなく収納にいただく。威力が弱まり口から黒煙しか出なくなったので、手加減してハンマーで意識を刈り取ってやる。ドラゴンだから一応警戒しないとな。
マイの所へ戻り食事をいただく。モツ煮込みスープだ。
美味い!
美味すぎる!
涙がこぼれそうになるのを我慢する。塩となんかの調味料だけで煮こんでるのだと思われるのだが、暖かくて旨味が凝縮されている。
「一生懸命作ったんだけど、美味しい?」
「ああ、美味いな」
「良かった!」
マイは満面の笑み浮かべる。
本当はもっと褒めたい所だが、何て言えばいいのか解らない。がっついてすぐに汁まで全て飲み干してしまった。
また、ドラゴンの所へ行く。奴は近づいても目を閉じて動かない。試しに軽くハンマーで地面を叩いてみる。ドラゴンの瞼が微かに動く。こいつ、ドラゴンのくせに狸寝入りしてやがるな……
「起きろ! ぶん殴るぞ!」
ドラゴンはしぶしぶ目を開ける。
「早く出せ!」
ドラゴンはのろのろと口をあけると、やる気無いブレスを吐き出す。炎に力がない。これはお仕置きだな!
吐き終わった時にドラゴンと目が合う。優しい目だ。決して野生動物の目じゃない。飼われてる動物、家畜の目だな。
ドラゴンは頭を下ろし目を閉じ、また狸寝入りする。この、チキンの家畜野郎が!
軽くハンマーで頭を叩く。こいつは繊細だから出来るだけ優しくどついてやる。
「こんなので満足すると思うか! 全力で吐け! 全力で!」
ドラゴンは身を震わせ首を上げると全力でブレスを吐き始める。
よし、わかればいい。
ドラゴンは良い感じのブレスを吐き終わったので、褒美をくれてやる事にする。
「食え」
僕は収納からヘルハウンドの死骸を3つ出してやる。ドラゴンはヘルハウンドを見つめて動かない。生意気な事に食べる気配がない。僕はドラゴンを見ると目が合う。
「食えって言ってんだ!」
ドラゴンはのろのろとヘルハウンドを口に入れる。食べ終わるのを見て、僕は立ち去る事にする。飯も食ったし、しばらくしたらいいブレスを吐く事だろう。
噴水の部屋に戻ると、マイが僕にカップを差しだした。
「はい、どーぞ」
貰ったカップに口をつける。コーヒーだ、とても落ち着く。どこからどうやって持ってきたんだ?
「あたしの仕事を受けたパーティーはお金持ちで、コーヒーのセットを持ってたんだ。あと何杯か作れるわ」
マイは、僕の表情を読んだのか説明してくれた。貴重なんだろう。今はカップ一杯しかないので、僕達は交互に飲む。
「ねぇ、ドラゴンってどういう感じなの?」
詳しく、チキンの家畜野郎の説明をしてやる。
「それってもしかして、あたしもついてっていいんじゃない?」
少し考える。
「問題ない。行くか」
コーヒーを飲み終わり。2人でドラゴンの所へ行く。
さっきの場所についても、あのドラゴンの巨体が見えない。耐えられず逃げたのか? 有り得る。
ドラゴンが先程いた所あたりにつくと、小さな人影が見えた。
「勘弁してください!」
僕たちが近づくと、角を生やした少女が人として有り得ないスピードで土下座した。