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 迷宮都市オリンピュアへ


「うん、わかったー。まぁ、一応さそってみるわー」


 マイはスマホを耳から離す。マイはかなりの長い間誰かと話していた。よくもそう話が続くものだ。僕には理解出来ない。


「ねぇ、ザップ、迷宮都市に新しいカフェが出来て、そこのパンケーキがふわっふわでとっても美味しいらしいのよ。今から行くけど一緒に行かない?」


 僕はここで少し困惑する。


 パンケーキって何なんだ?


 今まではなんとなく話を合わせて切り抜けて来たが、とうとうこの時がやって来た。マイや女の子の会話に頻出するパンケーキなるもの、カフェとかで食されているものらしいが、僕にはどんなものか皆目解らない。


 言い訳させて貰いたい。僕は生まれてこのかた生きていくのだけでやっとで、カフェとかいうゆとりのある所に足を運べるようになったのはつい最近だ。

 正直、マイと出会うまでは、食事は腹を満たしてくれたらそれだけで満足だった。だいたい食堂で1番安くて量が多いものを食べていて、お金が無い時は食べられる雑草やそれすら無い時にはそこらのゲテモノにも一通り口をつけた。

 自慢ではないが、自然界に存在する可食なものは見て解るし一通り口にした自負はある。


 多分『パンケーキ』は、パンとケーキの入り混じった美味しくて甘いものなのだろう。ゲテモノではないだろう。決して乾燥バッタやミミズや芋虫とかは入っていないはずだ。


「ああ、行こう」


 僕は内心の動揺を顔に出さないように鷹揚と頷く。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 魔王リナのワープポータルで、僕たちは迷宮都市のそばに出ると、街道に入り街を目指す。メンバーは僕、マイ、ドラゴンの化身アン、ラパンとシャリーだ。僕は普通のシャツとパンツ、女の子達はやたらヒラヒラお洒落な格好をしている。1つだけ確かな事は彼女達の格好が決して街道を旅する人のものではないという事だ。イメージ、カフェにいるお洒落女子だ。あ、カフェに行くのか……


 最近の情報から、迷宮都市オリュンピア、あ、間違えたオリンピュアは未だかつて無い好景気に沸いているという。言い訳させて貰うなら、迷宮都市は僕ら冒険者の間ではメイズと呼ばれていて正式名称で呼ばれる事は少ない。気を抜くと名前を間違える。

 なんで好景気かと言うと、辺り各地から名だたる冒険者が集まって迷宮の魔物召喚ポータルの破壊を競い合っているからだ。ポップする魔物は多く、それ故その素材も多い。しかも武闘派の冒険者ギルドのギルドマスター禿頭のナザレイ自身も攻略に参加して士気を上げているらしい。

 その中でも群を抜き迷宮を攻略しているのが、新進冒険者パーティー『ザッパーズ』の4人、僕たちをここに呼びつけた少女冒険者4人だ。


 程なくして城門につく。なんと、顔パスだ。労せずして3つの城門も難なく通り抜ける。こりゃ、多分僕の人相書きとかが兵舎に貼ってあるんだろうな。まぁ、ここでは結構暴れたからやむなしだろう。


 件のカフェはサードゲートの中にあった。外観は白塗りのログハウスみたいな感じだ。


「…………」


 中に入って絶句する。白い壁にピンクと水色の所謂パステルカラーのソファと机、至る所に南方の観葉植物が配置してあり、店内には波の音のような音が聞こえる。南国だ、まるで南国に居る気分だ。


「アロハーッ」


 店員さんが南国の挨拶で僕らを迎えてくれて席にエスコートされる。圧倒されるのは店員さんやお客さんの中で男は僕一人っきりだ。僕は今何処にいるのだろう。確かにここは迷宮都市オリンピュアだよな。所々冒険者っぽい格好の女性がいる事がどうにかそれを感じさせてくれる。


「ザップも同じものでいい?」


「ああ」


 僕もマイ達と同じものを頼む。隣の席に誰かが案内されてきて、それがアンジュたち少女冒険者4人だと気づく。間があったのは彼女達も着飾ってるからだ。


「おい、ザッパーズは止めてくれないか?」


 僕はアンジュたちに声をかける。


「ザップ兄様しょうがないっすよ、みんながそう呼ぶんですから。この街では殲滅する事を、今ではザップするっていうんですよ」


 うっ、僕はこの街で見せた魔物殲滅の事を思い出す。できるだけ手数を減らすために、ハンマーで凪いだ魔物をぶっ飛ばして違う魔物にぶつける事で、1スィングで二匹以上倒す僕をみて、みんながザップザップ言ってたような気が……


 そうか、僕自身が新しい言葉になったのか……


 そうこうしてるうちに僕たちの所にパンケーキが運ばれてくる。


 キノコ?


 僕は、かろうじてその言葉を呑み込む。運ばれて来たそれは、僕にはでっかいキノコにしか見えなかった。ヒビが入った大きく膨れた上部に少しすぼんだ下部。だけど、甘い香りが辺りに漂う。


「いっただきまーす!」


 マイはそれにドロッとした茶色い液体をかけてナイフフォークで切って口に入れる。その顔が綻ぶ。


 確かに女子はでっかいキノコが大好きだと聞いた事がある。いかん、ギリギリだ。しかもキレが悪い。


 僕もマイにならい、その液体をかけて口にする。


 なんじゃこりゃー!


 甘くてフワフワで、なんとも言えない。僕は目を閉じてその余韻を愉しむ。ああ、これは美味い。女子たちが熱狂するのも頷ける。


 長い間、マイ達は止めどない話を続け、僕は気がついたら、5皿も同じものを食べていた。


 ああ、最高だ!


 僕たちは満足して家に帰った。迷宮都市なのに迷宮には一歩も足を踏み入れずに。



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