今日は雨
「雨か……」
僕は外を見て呟く。今は、リビングでマイの淹れてくれたモーニングコーヒーを嗜んでいる。まずは一口ブラックで味と香りを愉しむ。
「うん、濃厚で芳醇な味と香りだ」
ああ、僕は今、間違い無くハードボイルドだ。最近僕はハードボイルドと呼ばれている小説をよく読んでいた。格好よい大人の男の主人公達。僕もそう見えるだろうか?
「マイ、俺はハードボイルドか?」
僕は勇気を出して聞いてみる。
「出会ったばかりの時は、ギリギリハードボイルドだったと思うけど、今は、でろんでろんのソフトボイルドね。ザップ、我慢しないでミルクとお砂糖、がしがし使っても良いからね」
「でろんでろん……ソフトボイルド……」
少しショックを受ける。
「なんか腐った卵みたいだな……」
僕はマイの言葉に甘えて、砂糖をドバーッ、ミルクをバシャーと入れて口にする。
うん、うんめー!
でろんでろんのソフトボイルド最高だ!
「確かに出会ったばかりのザップはピリピリしてたけど、格好、よ、よかったわ!」
格好よい?あれがか?
坊主頭に無精ひげにきったない布の腰巻きとマント。
「マイがそういうのなら、家の中ではミノタウロスの腰巻きで生活しようか?」
「えーっ、待って待って、今のままでいいから。だってぇ、あの格好だったら寝転んだり、座ったりしたら、あの、なんか、その、み、見えちゃう……し……」
マイは何を言ってるのだろうか?何を興奮しているのだろうか?
「変態じゃあるまいし、パンツくらい穿くぞ」
「そ、そうよねー、あたし、何言ってるのかなぁ。けど、あたしは前よりも今のザップのほうが……」
「おっはよー、ございます!」
ドラゴンの化身のアンがやって来た。いつもは低血圧でローテーションなのにどうしたんだろう。因みにコイツは今水玉模様のパジャマを着ている。アンは普段着には余りこだわらないのに寝具系にはめっちゃ手をかけている。何でだろう?
「今日は雨なのに元気だな」
「そりゃそうですよ、温かい日は雨の中外に出たら自然と汚れを落としてくれるじゃないですか。私は綺麗好きですからね」
そっか、ドラゴンにとっては雨がシャワーのようなものなんだな。
「と言うわけで、皆様はやく服を脱いで外に出ましょう。みるからにちょうどよく土砂降りですよ!」
アンがキラキラした目で僕を見る。
1人で行けという言葉を呑み込む。今日の朝の日課の素振りは、家の中で1番広い風呂場にしようと思ったけど、悪天候下での戦いを想定して、外でするのも良いかもな。
「よし、水着着用で、外で素振りをしよう。風呂も沸かしといてそのあと直行しよう!」
「「りょーかい!」」
たまには馬鹿するのも良いだろう!
僕はブーメランパンツとハンマーで外に飛び出した。
そしてそのあと何故か僕だけ街の衛兵さんにしょっ引かれて行った。